保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第32回|夏休みの宿題って必要?|栁澤靖明
第32回
夏休みの宿題って必要?
夏休みといえば宿題、まるでセットですよね。──とはいえ最近では、宿題じたいを廃止している学校も増えてきました。子どもからしたら「宿題ナシ」がうれしいでしょうが、保護者は「アリ」じゃないと遊びまくるっていう心配の声も聞こえてきそうです。
夏休みの宿題はなぜうまれたのか? いろいろあるようですが、1か月以上休んじゃうと1学期に学習した内容を忘れたり、2学期へスムーズにつながらなかったりするという理由があるらしいですよ。
今回は、夏休みの宿題=休業中の家庭学習に〈夏休み用のドリルやワーク〉(以下、夏休みドリル)を保護者のお金で買うってどうなんよ
♪ いっしょにLet’s think about it. ♪
そもそも夏休み、専門用語だと夏季休業日(学校教育法施行規則第61条)の意義も確認したほうがよさそうですね。夏季に休業日を設けた理由は、「学制」が敷かれたことと関係が深いらしいです。近代の学校制度が確立したのが1872年、それから数年後に欧米諸国を真似て文部省が夏休みという概念を提案し、「夏季冬季休業日(
まず、宿題を廃止している学校はその理由として「働き方改革」をあげています。夏休みの宿題はバリエーション豊かです。貯金箱をつくったり、ポスターを書いたり、自由に研究をしたり、読書して感想をまとめたり、今回の主役であるドリルを使った学習もありますね。
宿題を出す=宿題をチェックするという行為がうまれ、教員の負担は増えますね。また、これだけ多いとチェック以前に、集めるのもたいへんでしょう。さらに事務職員目線でも、貯金箱やポスターをその対象のコンクール主催者に発送する仕事があり、立体作品やポスターくらい大きい作品の発送って、けっこうたいへんです。
保護者はどう考えているのか──、ググってみたところ、やはり「宿題アリ」派が多かったですね。おもな理由としても、夏休みの宿題起源説と同じような意見や勉強をしなくなるっていう感じでした。課題を与えておかないと不安なのかもしれません。
それでは、子どもはどうでしょう。子どもの回答はとるに足らず──ということでしょうか。ネット上では見つかりませんでした。きっと「宿題ナシ」9割超えでしょうか。小学生が登場するアニメ「ドラえもん」や「ちびまる子ちゃん」でも最終日まで大事にやらずにとっておくシーンがありますね。
わたしは、7月中に終わらせてしまうタイプの子どもでした。いまでもそうですが、〈やることが残っている状態〉が気持ち悪いんです。そのため、夏休みドリルなんていうのも配られたらすぐにとりかかりますし、夏休みを待たないで終えることもありました。すべての子どもにあてはまるわけではありませんが、思惑通りに継続的な学びが達成できていることは少ないように思えます。
このような状況で、夏休みドリルを学校が選んで保護者の負担で買ってもらう行為にどれだけの意義をもたせることができるでしょうか? もちろん、働き方改革の流れから、その宿題を教員に手作りさせるという提案は難しい状況にあります。
しかし、第29回「なんで振替手数料って保護者負担なの?」でも書きましたが、「『働き方改革』という公的政策を保護者負担=私的費用で実現することの是非は問い直すべき」です。
そもそも、夏休みには宿題は出さねばならぬという固定観念を見なおすことも必要でしょう。文部科学省も「主体的な学び」や「個別最適な学び」という方針を示しています。いくら夏休み中に〈つなぎ〉が必要だとしても、受動的な宿題を一括で提供していく、しかも保護者にお金を出してもらう前提もふくめて見なおしが必要だと考えます。
ドリル以外の宿題も似ていますよね。貯金箱をつくる材料だって、ポスターを描く画用紙だって、読書感想文用の図書&原稿用紙にもお金がかかります。それを家庭が負担する場合も多いです。
さらに、負担といえば〈丸付け〉という労働的負担も同時に課していることがあります。ドリルの回答を保護者が保管し、採点後にやり直しをさせてから提出──なんていうことはよく聞きますし、保護者の立場でも体験済みです。また、自由研究を筆頭に保護者が手伝わざるをえない状況もあるでしょう。
夏休みの宿題という学校的慣習──本当に必要なのでしょうか?
2018年には、文部科学省が「宿題代行」(子どもに代わって宿題をすることや、読書感想文などの完成品を売買すること)の禁止を通知しました。
保護者がそこまで提言していくことは難しいかもしれませんが、隠れ教育費(費用面・労働面)となっている部分から話題にしていくことは可能でしょう。
絵日記なんていう宿題もよく出ますから、子どもに「お父さんは自由研究をガンバりすぎて熱を出してしまいました」「お母さんは丸付けをしていたらケンショウエンになったといっています」など、訴えの代弁をお願いしてもいいかもしれません(笑)。逆に担任からそれを賞賛するようなコメント──「お父さん優しいね」とか「お母さんに手伝ってもらえてよかったね」という流れになっても責任はとれませんけど
8月も中旬が迫ってきます。夏休み、満喫できていますか?
栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の小学校(7年)と中学校(13年)に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・修学支援制度。具体的には、「教育の機会均等と無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などをライフワークとして研究している。「隠れ教育費」研究室・チーフディレクター。おもな著書に『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、2016年、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、2019年、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。