保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第46回|スポ振って知っていますか?|栁澤靖明

保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。 栁澤靖明 学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯、「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

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第46回
スポ振って知っていますか?
栁澤靖明

 

 

 

 運動会の季節がやってきました! いや、もう終わったよーっていう学校もあると思いますが、本校は今月なんです。昨年度は、10月末だったこともあり、寒くてウィンドブレーカー着ていました。しかも、追い打ちをかけるように開会式直前の豪雨⋯⋯。いやー、辛かった。辛かった。

 運動会といえば、組体操、リレー、大玉転がし、ムカデ競争、玉こんにゃく⋯⋯じゃなくて玉入れ(校庭の周辺に露店が出るという地域もあるとかないとか)などでしょうか。

 組体操は、事故が起こりやすい種目といわれていますね。前々から教育社会学者の内田良さんが問題提起して話題にもなりました(「国連も問題視する「組み体操」が、それでも巨大化しているナゾ」)。この記事によれば、「中学生による10段のピラミッドは、高さ約7メートル、土台の最大負荷量は約200kg/人に達する」とのことです。内田さんらの研究や啓発行動により、ここまでのピラミッドは組まなくなったし、組体操の実施自体も減ってきているように感じます。

 もちろん、組体操以外でもリレーですべってころんだり、大玉とともにころがってしまったりとケガの多発する行事、それが運動会でもあります。

 今回は、そんな〈ケガ〉の治療費などに対する給付事業、「日本スポーツ振興センター」の災害給付について学んでいきましょう。


 

♪ いっしょにLet’s study about it. ♪


 

 まず、制度の概要を説明しておきます。独立行政法人「日本スポーツ振興センター」(以下「スポ振」)では、災害共済給付事業を実施しています。利用したことがあるひともいると思います。学校でケガをしたときに保健室から教えてもらえるやつですね。全国的にもメジャーな事業であり、「全児童生徒等総数の約95%」が加入している制度です(令和6年度「災害共済給付ガイド」)。

 え?! むしろ加入は強制じゃなかったの? っていう疑問が生じたひとも多いかもしれません。そう、加入に強制力はありません。ただ、学校によっては補助教材費と抱き合わせ徴収をし、加入意思の確認もせず、全員加入としているような場合もあるようです。⋯⋯PTAみたいですね。

 掛金は、義務教育諸学校の場合、年920円(幼稚園270円、高校2,150円)です(独立行政法人日本スポーツ振興センター法施行令第7条)。しかし、そのすべてを保護者が負担するのではなく、自治体と折半したり、全額公費で支払われたりすることもあります。ちなみに、埼玉県川口市の小中学校は折半なので460円が保護者の負担となっています。ほかにも細かい規定はあるので、このかぎりではありませんが、ここではこれだけ覚えていただければじゅうぶんです。

 だいじなことはどんな給付が受けられるのかという話です。かんたんに説明すると、医療費の窓口負担(3割)を支払ったら全体の4割が戻ってくる(給付される)制度です。書類を数枚用意する負担はありますが、1割分得します。窓口負担が3,000円だったら、4,000円給付されるわけですから、小中学生なら1回使えば1年分の掛金はペイできますね。子ども医療費無償の自治体でも、窓口負担をすることで給付を受けることができます。

 もちろんケガをしないに越したことはありません。あ、ケガだけではなく食中毒や熱中症なども対象であり、障害や死亡の場合も給付(見舞金)があります。

 さて、ここからが本題です。じつは1割得するスポ振にも給付条件があります。「学校でケガをしたとき」と前述しましたが、正確には「学校管理下」という限定されたケガなどに対する給付です。そして、「学校管理下」という定義が深いんです。

 いきますよ~。①「授業中」は当然ですね(もちろん、運動会などの学校行事も修学旅行などの校外活動もOK)。②「課外活動中」もだいじょうぶ(部活動や夏休み中のプールもOK)。③「休み時間」だって対象です(放課後もOK)。ここからは、少しディープになります。④「通学中」(登下校)、同じような条件下として⑤「校外活動における集合解散地と自宅の往復」(たとえば、遠足のときに集合解散地と定めた駅⇔自宅)という教育活動の前後もいけます。そして、⑥学校の寄宿舎にいるときです。

 ついでに、さらにディープな学校管理下も覚えておきましょう。最近は、公立中学校でも海外へ修学旅行に行っています(港区が有名になりました)。修学旅行は対象だけど、海外はどうなの? って思いますよね。じつは、多少条件はありますが、2020年4月に中学校の海外修学旅行も対象になりました(高校は1986年から対象)。

 では、高校において修学旅行より学習性が強そうな留学(短期も含む)はどうでしょうか。学校教育法施行規則によれば、「外国の高等学校における履修を高等学校における履修とみなし(‥)単位の修得を認定」できるとあります(第93条第2項)。いけそうに思えますが、こちらはダメなんです。安全管理体制の整備が難しいという理由が通知されています。だから、留学の場合は旅行保険をかけるんですよね。

 学校管理下のバリエーションと負傷条件を覚えておくことで、利用可能にもかかわらず、学校から知らせがないときなど、万が一のときに問い合わせできますね。学校の担当者は養護教諭(保健室)が多いです。養護教諭は基本的に「スポ振マスター」ですが、担任などの教員は詳しくないひとが多いでしょう。

 なかなか深いスポ振制度でしたが、周知はそこまで深まっていないようですし、保護者のみなさまもウェブサイトで知識を深めていただき、「スポ振マスター」ゲットだぜ♪

 

栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の小学校(7年)と中学校(13年)に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・修学支援制度。具体的には、「教育の機会均等と無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などをライフワークとして研究している。「隠れ教育費」研究室・チーフディレクター。おもな著書に『事務だよりの教科書』『学校事務職員の基礎知識』『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『教師の自腹』(東洋館出版社)、『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。