保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第48回|「雑巾2枚」は寄付ですか?|栁澤靖明

保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。 栁澤靖明 学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯、「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

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第48回
雑巾2枚」は寄付ですか?
栁澤靖明

 

 

 

 冬休みが近づいてまいりました。夏休みより短いけど、連続する休みという意味では冬休みのほうが休んだ気になります。役所もそうですが、学校も基本的には12月29日~1月3日は年末年始の休日です。最近では、働きかた改革の流れから「学校閉庁日」という〈学校を閉める日〉を設けることが推奨され、年末年始の休日前後もそれにあてている自治体があります。閉庁日は、休日ではないため自分の有給休暇を使って休むんですけどね。夏のお盆休みも閉庁日としているところは多いです。むかしは、お盆休みでも日直が置かれ、だれかしら勤務する必要がありました。ボクも何度かひとり出勤を経験したことがあります。だれもいない学校って昼間でも怖いんですよ⋯⋯。

 さて、そんな長期休業が明けたとき=「始業式の持ちもの」として代表されるのが〈雑巾〉ではないでしょうか。学年だよりや学級だよりで「雑巾2枚」や「ビニール袋3枚」「ティッシュボックス1箱」なんていう持ちものを指示された経験はありませんか? あれって強制的な寄付なのでしょうか──。

 連載4年目の締めくくりには、とことん「雑巾2枚」と向き合いましょう。


 

♪ いっしょにLet’s think about it. ♪


 

 まず、なんで雑巾を持たせてほしいという要求があるのか考えてみます。まぁ、かしこまって考えることもないような理由なんですけど──ご想像のとおり、掃除で使うからです。学校には、自分で使う雑巾を自分で用意するという慣習があるんですよね。昭和の時代は、タオルを縫って雑巾をつくるのがあたりまえでした。雑巾持参の歴史を研究したことはありませんが、戦前から続いている雰囲気を感じませんか? 令和のいまは、「学校用雑巾」を百均で買う時代でしょうけど。

 いや、タオルを縫う〈労力〉も百均で買ってきてもらう〈費用〉も「隠れ教育費」です。学校で使う雑巾なら学校が用意するべきです。もちろん公費でね(復習しましょう~第25回「公費ってなに? 私費ってなに?」)。「雑巾_大量_激安」ってググってみたところ、1枚40円弱のものもありました。400人規模の学校でひとりあたり2枚買っても32,000円です。そこまで費用もかかりません。

 ビニール袋もね、レジ袋の削減が社会的にも浸透し、エコバック持参が常識になってきました。そのため、最近の学年だよりなどには見かけなくなりましたね。そのため、学校でビニール袋を購入することが増えている場合もあります(公費)。ほんとはそれも削減していくべきでしょうが、給食の残飯や牛乳パックを捨てるときに直接ゴミ箱というわけにもいかず⋯⋯配膳後の食缶にも戻せず⋯⋯、なんていう話はよく聞きます。

 雑巾とビニール袋に大きなちがいがあります──ちょっと考えてみてください──準備はいいですか? 答えは、学校生活においても〈個人の所有物〉として留まるか、〈共有の財産〉になってしまうかというちがいです。後者は、個人に帰属しないため〈寄付〉という状態で理解するしかありません。雑巾2枚の場合も1枚に名前を書き(個人の所有物)、もう1枚は無記名で提出(共有の財産として寄付)する場合があります。これだとビニール袋と同じ問題が起こります。


百均には「学校ぞうきん」というピンポイント商品も

 ここでティッシュボックスに登場してもらいましょうか。ティッシュボックスには名前を書けますが、ひとり1箱を机上に置けるほど机は広くありませんし、教室内に1箱あればじゅうぶんです。そうなると、ティッシュ1枚1枚に名前を書けませんので、寄付という状態になります。

──ちょっと思ったのは、この状況下でティッシュを教職員が使用した場合、地方公務員の倫理規定に違反するんでしょうかね(物品の贈与)──今回の問題はそこではなく、強制的な寄付の問題です。

 まえにも登場(第41回「なんで受益者負担っていわれるの?」)した地方財政法を紹介します。その第4条の5に「(⋯)地方公共団体は(⋯)住民に対し、直接であると間接であるとを問わず、寄附金(これに相当する物品等を含む。)を割り当てて強制的に徴収(これに相当する行為を含む。)するようなことをしてはならない」とあるんです。地方財政法は、地方財政の健全化を目的とした法律です。法律の目的を解釈すれば、この条文では「地方公共団体」が負担するべき費用を「住民」に「割り当てて強制的に徴収」してはダメという意味があります。それには、「金」という寄付以外に「物品」も含まれます。もちろん、完全なる自発的行為としての寄付を否定する条文ではありません。しかし、始業式の持ちもので指定するとなると「割り当てて強制的に徴収」になる可能性は高いでしょう(判例がないし、具体的なことを政令などで定めていないから確実に抵触するとはいえません)。

 雑巾も百均で買っちゃえば安いし、ティッシュボックスも自宅にあるし、そんなことまで深く考えてなくもいいという保護者も多いと思います。でもね、それがトイレットペーパーやハンドソープ、コピー用紙などにひろがっていったらどうでしょう。子どものためとはいえ、ちょっと疑問ですよね。

 いきなり法律違反です! という感じじゃなくて、その用途や必要性などの再検討を促してみませんか? そろそろ保護者アンケート(第12回)の時期がやってきます。

※本連載は今回でいったん終了し、2025年2月よりリニューアル。「保護者の疑問にヤナギサワ事務主幹が答えます。」と題し、隔月連載として再スタートします。ご期待下さい。

 

栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の小学校(7年)と中学校(13年)に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・修学支援制度。具体的には、「教育の機会均等と無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などをライフワークとして研究している。「隠れ教育費」研究室・チーフディレクター。おもな著書に『事務だよりの教科書』『学校事務職員の基礎知識』『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『教師の自腹』(東洋館出版社)、『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。