保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第14回|うちの子だけコサージュをもらえない?──PTAの疑問①|栁澤靖明
第14回
うちの子だけコサージュをもらえない?
──PTAの疑問①
──PTAの疑問①
みなさん、こんにちは。今月はPTAのお話です。
『本当の学校事務の話をしよう』や『隠れ教育費』では、会費という視点で触れてきました。また、わたしは親側のP会員(執行部以外の役員はだいたい経験)、学校側のT会員(正副会長以外の執行部役員はだいたい経験)の双方で、長くPTAにかかわってきました。
経験者は語る──ならぬ経験者は疑問に答える──をしていきます。たとえば、
①突然、「あなたは次期の役員になることが決まりました!」って電話がPTA役員から来たんだけど、なんで番号知っているの?
②体育の授業で使うらしいバドミントンのネットをPTAで買ってほしいと頼まれたんだけど、どうして学校で買えないの?
③「卒業式で付けるコサージュは、PTA会員の子どもだけにプレゼントします。PTAに加入していない家庭は自分で用意してください」って手紙が来ました。 どうして?
⋯⋯などなど、保護者のみなさんからいろいろと疑問が届いていますが、今回は卒業シーズンということで、③のコサージュに対する疑問を考えていきましょう。
卒業式で卒業生が胸に付ける、「卒業おめでとう」的なことが書かれた札付きの花(=コサージュ)をPTAからプレゼントしている学校があります。しかし、その対象は会員の子どもだけであるため、非会員の子どもは各家庭で用意してほしいという趣旨の手紙に疑問をもっている保護者(=PTA非会員)がいます。
ここで実際にあった事例を紹介します。いわゆるコサージュ事件という裁判です。
その学校では、コサージュを保護者会(≒PTA)が購入し、用意することになっていました。しかし、ある家庭は保護者会を退会していたため、コサージュをもらえなかったんです。しかも、保護者会にコサージュ代の実費を払いたいと申し出たけど、拒否されたという事実も重なっています。
このことから、その保護者は「学校行事である卒業式において、親が保護者会に入っていないという理由で子に影響が出るのはおかしい」と訴えました。一方の保護者会側は、「会の活動には協力せず、賛同できることだけ実費負担することは受け入れがたい」などと主張し、争いが始まりました。
この裁判は、〈和解〉という決着を迎えましたが、PTA問題のリーディングケースとして、P側もT側もスルーしてはいけないことだと考えます。
この論点、みなさんはどう考えますか?
♪ いっしょにLet’s think about it. ♪
この問題のややこしさは、会員か非会員かという主体が、子どもではなく保護者であるという点です。PTAの活動として、会員のみを対象にするなら、差別する相手は保護者です。会員は保護者であり、子どもたちではありません。
どうしても子どもに対してコサージュをあげる活動がしたいなら、保護者の属性(会員or非会員)を子どもに適用させるべきではないと考えます。PTAの活動目的は個別支援ではありません。
1954(昭和29)年まで遡れば、文部省も「小学校『父母と先生の会』(PTA)第二次参考規約」として、「家庭と学校と社会における児童・青少年の幸福な成長をはかること」をPTA設立の目的に推奨しています。いまでも、この目的を掲げているPTAは多いです。「児童・青少年の幸福な成長」とググってみてください。親の属性がコサージュに影響をおよぼしてしまう活動が「幸福な成長」につながるとは思えません。
⋯⋯とはいうものの、各家庭から集金しているお金でコサージュを買うんだから、払っていない家庭のぶんまで負担するのは納得できない、という感覚があるかもしれません。給食費の未納問題に似ていますね。
しかし、PTAは会費制です。1食〇〇円と集金単価が決まっている給食とは性質が違います。「個人の支払った会費=その個人の消費」と、直接にはつながりにくい費用です。
あるいは、PTAとは別に卒業対策(準備)委員会をつくって、卒業対策(準備)費を集金している学校もあります。このケースなら、コサージュ事件の問題をクリアできそうですが、そもそもコサージュを保護者が購入するべきなのか──「隠れ教育費」問題の専門家としては考えます。
卒業式でコサージュを付けること=学校行事で必要な物品を用意すること、ととらえれば、公費で購入する方向にもっていけるでしょう。公費だとプレゼント感がない……といわれそうですが、公費の財源は税金であり、つきつめれば保護者が支払っていることと変わりありません。教育委員会から記念品が贈呈されるケースもありますが、その費用はもちろん公費です。
まずは、公費による購入が可能かどうか、事務室のドアをノックしてみませんか?
栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の小学校(7年)と中学校(13年)に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・修学支援制度。具体的には、「教育の機会均等と無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などをライフワークとして研究している。「隠れ教育費」研究室・チーフディレクター。おもな著書に『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、2016年、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、2019年、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。