こんな授業があったんだ|第36回|教師のためのパワポ活用術〈後編〉|稲葉通太

こんな授業があったんだ 授業って、教科書を学ぶためだけのもの? え、まさか。1980〜90年代の授業を中心に、発見に満ちた実践記録の数々を紹介します。

授業って、教科書を学ぶためだけのもの? え、まさか。1980〜90年代の授業を中心に、発見に満ちた実践記録の数々を紹介します。

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教師のためのパワポ活用術 〈後編〉
こんな教材がつくれます──教科別スライド
(聴覚支援学校)
稲葉通太

 <前編>はこちら

教科別にPowerPointでつくった教材を紹介します。どれも、これまでに述べたこと、機能をもとにしています。なお、この教材例はデジタルデータとして提供しています。

算数1 「5」のかたまりを〝変身〟で理解

「5」のかたまりの意識化は、小学算数において落としてはならないものですね。その意識化が難しくて、ひとつずつ数えることから転換できない子どももいます。これは、かなり課題がある子どもを念頭に、5を個数ではなく、「かたまり」として意識させるために作成したスライドです。
1円玉を5枚集めると、1枚の5円玉に変わるようになっています。1円玉が1か所に集まり、消えていく1円玉の中央から、5円玉がグルグルと回転、拡大しながら出てきます。1円玉が1か所に集まるのは「軌跡」、消えるのは「フェード(終了)」、回転と拡大は「ピンウィール」というアニメーションの効果をかけています。
何度もくりかえして、1を5個くっつけた積み木による理解から転換することができました。

算数2 くり上がり・くり下がりを動かせば

くり上がり・くり下がりのある計算で、いったい何が上がったり下がったりするのか理解させようとつくったスライドです。「軌跡」のアニメーションを使い、10や100のかたまりがスーッと移動し、くり上がりとくり下がりが目でわかるようにしました。
この動きにより、たし算では、10や100のかたまりになったら、それにあう位に移動させるということが意識できるようになります。ひき算では、「くり下げる」の意味は上の位からかたまりをもらってくることだと理解することができます。

「10のかたまり、100のかたまりができたよ。どこに持っていけばいいだろう?」と問いかけながら進めます。305-178のひき算では、305の十の位の0が難しいところですが、一の位に10をくり下げるので9になるということを理解してくれたときはうれしかったです。
これはつくりこみにかなりの時間がかかりました。パーツの大きさを決めるのがたいへんでしたし、古いバージョンのPowerPointでは、素材を移動させるとき、置きたい位置になかなかあわせられなくていらいらしたものです。これが2013バージョンでは改善されて、置きたいところにあわせられるようになりました。

算数3 4 コマまんがで考える文章問題

計算はできるけれど文章問題はイヤだ、という子どもが多いです。なんとか楽しい感じでやりたいなあと思って、4コマまんがで文章問題を考えるスライドをつくってみました。
特別な効果は使わないシンプルなつくりで、コマと文章のペアをひとつずつ出していくというものです。「つぎのコマはなんだろう?」と展開を予想しながら進めていきます。
❷のように、コマのなかには、学習と関係のないものも入っていますが、気持ちをほぐすためのくふうとして入れてあります。文章も、生活感を出して楽しくしました。この部分も、吹き出し(セリフ)を考えあったりして見せていきました。
授業のねらいにもよりますが、文章問題にたいするアレルギーを少しでもなくすために、わたしは授業の導入部分で見せました。子どもたちはとても喜んで、笑いながら楽しんで学びました。さらに「自分たちも問題をつくってみたい!」と言いだしたので、手描きの4コマ問題をつくらせて、それをPowerPointに挿入し、各自がつくった問題を発表しました。

算数4 できた! 円周上を回転する10円玉

円周と同じ長さの直線上で10円玉を転がすと1回転なのに、円周上だと2回転になる。この不思議を感じてもらおうと、スライドをつくりました。
この問題は、小学算数で扱うレベルのものではありません。わたし自身、理解するのに時間がかかりました。PowerPointで、この解き方を子どもにもわかりやすく説明できないかと、チャレンジする気持ちでつくったものです。授業ではなく、朝の会の時間でクイズ的に使いました。
クリックすると、上の10円玉が下の10円玉の円周に沿って回転しながら移動します。子ども自身が48クリックして、感覚的に理解できればじゅうぶんだと思います。このように見せることで、「10円玉がすべらないように回転する」という意味はすぐに理解していました。
この10円玉が回転しながら回っていくという動きは、ほんらいPowerPointでは出せないのですが、くふうしだいでそれらしく見せています。ここまでやると、もう「趣味」の領域ですね。ただ、この
「くふうしだい」というのが、PowerPointの楽しいところでもあります。また、この問題はわたし自身にもわかりにくかったのですが、PowerPointを動かして説明のしかたを考えているうちに、「なるほど……」と理解できました。わたしにとっても思い出のスライドです。

10円玉は何回転?
10円玉の動きのつくり方

国語1 音読み・訓読みから漢字を推理

聴覚障害の子どもたちは、漢字を書くことはできても、聞こえないために、なんと読むのかわからない場合が多いです。音訓も同様で、ほんらいは耳から聞いて覚えるものですが、それが困難です。音訓の意味さえも理解に時間がかかることがあります。このスライドは、そんな子どもたちに音訓とは何かを視覚的に理解させるためにつくりました。もちろん、耳が聴こえる、漢字が苦手な子どもにもけっこう使えると思います。
まずは音読みだけをヒントに、同じ音読みの漢字をいくつか出していきます。これ自体が漢字学習になります。続けて訓読みを示し、子どもが気づいたらノートや黒板に書かせます。最後に、真ん中に答えの漢字を大きく出し、「訓読みにしたら、どの漢字なのかわかるんだよ」と結びます。ヒントを少なくしたり、その漢字を使った単語の例を示したり、いろんなバリエーションが考えられると思います。
この学習によって、子どもたちは音読みと訓読みをかなり意識するようになり、以降の漢字学習でとても役に立ちました。
あたりまえのことですが、学習スライドにおいては、凝ったフォント(書体)は必要ありません。国語では、やはり正しく字を覚えるために教科書体を使用するのがいいと思います。温かみがありますが、角ポップ体はやめたほうがいいです。

この読み方、なんの漢字?
ヒントを少なくし、単語例を入れたパターン

国語2 いろいろな日本語を楽しく学ぶ

漢字の音訓への意識と同じく、聴覚障害の子どもたちは、聴こえる人たちがあたりまえに使っている日本語の意味を理解しにくいことがあります。子どもたちが苦手意識をもたないで、楽しく日本語を学ぶためのスライドをつくりました。
国語でのPowerPointの使用は、教科書の文章や作文などをそのまま読ませたり、関連する資料(絵や写真)を提示したりする場合が多いのですが、このようなスライドもつくれます。できるだけイラストを入れて、考えやすいようにしました。どちらも、特別な効果は使っていません。ただ、情報をいっきょに全部出しにしないで、クリックごとに出すのを基本としています。
「どの子の言っていることが正しいと思う?」と問いかけながら進めました。このとき、わざと、まちがったことを言っている子が正しいんじゃないかという言葉がけもしました。たとえば、【今、7時5分前】のスライドなら、左の男の子にあわせて、「たしかに、もう少しで7時5分になるからなあ……」とつぶやく、という感じです。ほとんどの子が正解を答えられなかったのですが、子どもたちは、すごく楽しんでいました。

「今、7時5分前」の意味は?
正しいのはだれかな?

同じように、ことわざについてのスライドもつくりました。絵が表していることわざと、その使い方を考えるスライドです。
最後の2枚のスライドを見てください。子どもたちは、ことわざそのものの意味は理解できても、実生活で使えないことが多いです。実生活ではこんなシーンで使うよ、ということをこの2枚で説明しています。そして、最後に出す囲みで文章を考えさせます。このスライドなら、
「雨の日に水やりをするなんて、月夜にちょうちんだね」という感じです。

これをことわざで言うと? 

国語3 炎と水のアニメーションで調理用語をイメージ

国語の教科書で、調理をテーマとした「すがたをかえる大豆」を読んだとき、子どもたちは、調理用語をぜんぜんイメージできませんでした。現代の食生活の影響でしょうか、「揚げる」という用語以外は知らない、という子どもが多いのに驚きました。このスライドは、いろいろな調理用語を教える必要を痛感してつくったスライドです。
それぞれの調理法については、基本的に炎・水・容器だけで説明しています。ガスの炎と鍋の湯にはアニメーションをかけ、火力の強さや沸騰のブクブクを表現してみました。
「調理用語っていろいろあるんだよ。きみたちが好きな食べもの、あるよね。それがどうやって調理されているのかを知るのも大事だよ」と話しながら、調理法のイメージと、それを使った料理の写真をつぎつぎに見せていきます。わたしは国語の授業で使いましたが、家庭科の学習までつながればいいなと思います。

 

(おわり)

書籍では社会・理科・英語のほか、学級通信や劇づくりなど、さらに豊富なPowerPoint活用ワザを紹介しています。

登場したパワーポイントのデータがダウンロードできます。こちらをごらんください。


「教師のためのパワポ活用術」ダウンロードページ

出典:稲葉通太『教師のためのパワポ活用術』太郎次郎社エディタス、2016年

稲葉通太(いなば・みちお)
1960年、大阪府生まれ。NPO法人「デフサポートおおさか」副理事長。
6歳のとき、交通事故の後遺症で失聴。1984年、大阪府立生野聴覚支援学校に赴任。2015年より大阪府立堺聴覚支援学校教諭。聴覚障害児・生徒にたいする教育サポート「ぼちぼちEdu」を2010年に立ち上げる。
「ちがうことこそばんざい」「出会いから共同へ」を大事にした教育実践に取り組む。子どもたちとの実践は教室を飛びだし、下水処理場の職員との共同した学びへと発展、2013年、その先駆的な取り組みがMicrosoftにより高く評価され、Microsoft Expert Educatorの認定を受ける。2014年、Microsoft主催のICT教育活用世界大会(スペイン)に出場し、外国の教師たちとのグループワーク分野で最優秀賞を受賞。さらに2015年には、「ぼちぼちEdu」の活動が日本教育情報化振興会主催のICT夢コンテストで入賞を果たす。
現在も、国内外の多くの教師、地域の人びととつながりながら、ICTをつうじたワクワクした学びの可能性を広げている。