保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第38回|給食費は保護者負担って決まってるんじゃないの?|栁澤靖明
第38回
給食費は保護者負担って
決まってるんじゃないの?
決まってるんじゃないの?
いまからちょうど1年前、「学校給食費の無償化ってどうなの?(第26回)」という記事を書きました。そのとき、葛飾区から始まった「給食費無償化」方針のうねりが広がり、東京23区では約3分の1の自治体がそれに続いた──と紹介しました。
あれから1年が経過し、現在では23区内すべての自治体が「給食費無償化」方針を示しています。区長や区議会がヤル気を出せば(無償化に向けて動けば)手のひらを返したように無償化は実現するんですね。
当時、無償化を検討していないと答えた自治体の多くは、その理由を〈財源確保の問題〉と〈学校給食法の規定によれば「保護者負担」であるから〉としていました。
第26回でも書きましたが、〈財源確保の問題〉は市区町村予算【1%】をどう付け替えるかです。23区の動きを見れば、首長と議会がヤル気を出せば(無償化に向けて動けば)予算【1%】の付け替えは、そんなに困難な道のりではないのかもしれません。
それでは、もう片方の理由であった〈学校給食法の規定によれば「保護者負担」であるから〉を乗り越える説明=「給食費は保護者負担って決まってるんじゃないの?」=無償化してもいいの? という疑問を中心に、改めて給食費の無償化について考えていきましょう。
♪ いっしょにLet’s think about it. ♪
まずはお礼です。「『♯ 給食費無償』を全国へ」というネット署名を「第33回:給食のエプロンは共用? 個人持ち?」の回で紹介しましたが、昨年10月30日、無事に文部科学省へ提出してきました。ご協力ありがとうございます。今後も継続して無償化の実現に邁進してまいります。
この署名を広げていくなかで、学校給食法の規定が話題になることもありました。法律で保護者の負担と書かれているにもかかわらず、無償にするのは問題──という論調がありました。そうですね、条文をそのまま読めばそう思いますよね。
問題の条文はこちらです。学校給食法第11条第1項「学校給食の実施に必要な施設及び設備に要する経費並びに学校給食の運営に要する経費のうち政令で定めるものは、義務教育諸学校の設置者の負担とする」──これは公費部分を定めた条文ですね。そして、第2項「前項に規定する経費以外の学校給食に要する経費(以下「学校給食費」という。)は、学校給食を受ける児童又は生徒の学校教育法第16条に規定する保護者の負担とする」──これです。保護者の負担=私費と書かれている条文です。
この条文があるのに、そんな署名に賛同したら法律違反に問われるかもしれない……、そこまで深読みされているひともいました。まあ、法令の改正を訴える署名もありますし、そんなことで違法性を問われることはありません。
学校給食法という法律の立法趣旨を説明します。1954年に「学校給食が児童の心身の健全な発達に資し、かつ、国民の食生活の改善に寄与するものであることにかんがみ、学校給食の実施に関し必要な事項を定め、もつて学校給食の普及充実を図ることを目的」(制定当時)として成立しました。同年、旧文部省は文部事務次官通達を出して問題の条文(第11条:当時は第6条)について、その費用負担にかんする解釈を示しています。以下、ちょっと長くなりますが、大事な部分なので引用します。
これらの規定は経費の負担区分を明らかにしたもので、たとえば保護者の経済的負担の現状からみて、地方公共団体、学校法人その他の者が、児童の給食費の一部を補助するような場合を禁止する意図ではない。要するに、これらの規定は小学校等の設置者と保護者の両者の密接な協力により、学校給食がいよいよ円滑に実施され健全な発達をみることが期待されるという立法の根本趣旨に基いて、解釈されるべきである。
このように、当時の見解では「給食費の一部」を「地方公共団体」(=公費)で補助することを禁止していないことが明らかです。そして、この見解は現在でも有効なんです。2018年に国会でこのことが再度確認され、そのときに「一部」ではなく「全額」も否定されることはない──と、むしろ進展しています(第197回国会議事録)。
もうひとつ、予算のことも書いておきましょうか。こちらも冒頭で【1%】の付け替えと説明しました。これは、基礎自治体である市区町村が独自に予算化する場合の話です。それ以外にも、千葉県(「千葉県、第3子以降の給食費無償化へ 市町村立校含めた全県は全国初」や「東京都 小中学校の給食費 来年度から最大で半額補助する方針」)のように都道府県が予算化することもできますし、文部科学省管轄の国庫負担による予算化も想定できます(私案では、義務教育無償の原則に則ることを目的とした法律、義務教育費国庫負担法に盛り込むなど)。
また、学校=文部科学省という縦割りで考えるのではなく、子どもの〈食の権利〉保障という横のつながりによる無償化に向けた手立てがあってもいいと思います。教育扶助は、「教育」という冠がついている扶助ではありますが、文部科学省ではなく厚生労働省の予算ですしね。給食も福祉と考えれば、厚生労働省の範疇外ではありません。そんな感じで、内閣府が担っていた貧困対策に関連し、こども家庭庁からの支出も考えられるし、子ども食堂の延長として農林水産省が担うこともできるかもしれません。
大きなくくりでは国の予算ですが、学校給食の価値は〈昼食〉だけに留まっていないことを考慮すれば、教育活動という切り口からだけではない、無償化を展望することもできるでしょう。
いま、各地で無償化を求める署名やそれを促進する団体が組織されています。ぜひ、今回紹介した文部事務次官通達も取り組みに生かしてもらいたいです。また、『隠れ教育費』の共著者である福嶋尚子さんも〈給食費無償伝道師〉のように各地で講演をされています。「隠れ教育費」研究室のウェブサイトからコンタクト可能なのでご覧ください(あ、ヤナギサワも対応可能ですよ)。
栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の小学校(7年)と中学校(13年)に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・修学支援制度。具体的には、「教育の機会均等と無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などをライフワークとして研究している。「隠れ教育費」研究室・チーフディレクター。おもな著書に『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、2016年、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、2019年、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。