保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第42回|補助教材って、どうやって決めているの?|栁澤靖明

保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。 栁澤靖明 学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯、「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

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第42回
補助教材って、どうやって決めているの?

 

 

 

 みなさん、こんにちは。ヤナギサワでございます。今回も「本当の学校事務の話」をしながら、「隠れ教育費」について考えていきましょう。──なんか最近、この導入のあいさつをしていない気がしたので初心に戻ってみました。

 さて、今回は補助教材ってどうやって決めているの? という疑問にお答えします。補助教材とは、宿題になっていることが多い「漢字や計算のドリル」、教科書を補うような「資料集や副読本」のことです。また、第40回(「補助教材費も無償にできるの?」)で話題にした無償化政策についても、そのあるべき方策を考えていきましょう。


 

♪ いっしょにLet’s think about it. ♪


 

 補助教材には、使用条件があるんです。しかも、それは法律に書かれています。引用しますと「教科用図書及び第二項に規定する教材以外の教材で、有益適切なものは、これを使用することができる」(学校教育法第34条第4項)。説明を加えると「教科用図書」とは、一般的な紙の教科書、「第二項に規定する教材」とは、学習者用のデジタル教科書をさします。それ「以外の教材」というのが、補助教材です。そして、その補助教材は、「有益適切なもの」にかぎり、使用できるとされています。

 もうひとつの条件は、文部科学省から出ている通知文にあります。「補助教材の購入に関して保護者等に経済的負担が生じる場合は,その負担が過重なものとならないよう留意すること」(各都道府県教育委員会などに宛てた「学校における補助教材の適正な取扱いについて」2015.3.4)。あくまでも「生じる場合」であるため、無償化を否定する通知ではありません。

 これらの、①「有益適切なもの」であること、②保護者等の「経済的負担が過重なものとならない」こと、というふたつの条件を考慮しながら、授業者は補助教材を選定していきます。また、保護者等の経済的負担にかんしては事務職員も意見をすることがあります。

 ちなみに、漢字ドリルなどは、学校のみを対象に販売されているため、個人的に買いたい場合でも直接メーカーから買うことはできません。価格も「学校納入価格」という特殊な定めがあり、難解な言葉をつかえば「再販売価格維持契約に基づく定価販売励行出版物」なんです(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第23条第4項)。そのため、相見積もりをしても価格は下がりません。では、保護者等の「負担」を抑えるためには、どんなことができるのかといえば、メーカー自体を選別するしかありません。それか、そもそも購入をやめるという選択もあります。それも、一種の補助教材を決める(使うかどうかを決める)行為となっています。

 じつは、学校や授業者以外にも補助教材を決める部分(①と②の検証)にかかわることがあります。それは、教育委員会です。法律では「学校における教科書以外の教材の使用について、あらかじめ、教育委員会に届け出させ、又は教育委員会の承認を受けさせることとする定めを設ける」(地方教育行政の組織及び運営に関する法律第33条第2項)とされています。

「届け出」or「承認」のどちらにするかを「定め」るのは、教育委員会です(学校を管理するための規則、いわゆる学校管理規則などによる)。すべての都道府県&市町村立学校管理規則を確認したわけではありませんが、多くの自治体では「承認」=教科書が発行されていない教科の主たる教材として使う教科書、「届け出」=教科書などと併用する副読本や学習帳などの補助教材、と区別されています。

 このように、補助教材の場合は「届け出」が一般的であります。そのため、教育委員会が補助教材使用の可否を判断することは、ほとんどないともいえるでしょう。

教科書にこれらの資料を入れてくれたらいいのにね

 最後に前回と前々回のまとめとして、無償化に向けた方法を考えてみましょう。

 大前提として、補助教材は学校現場で採択できる権限(子どもの権利保障と教材選定権としての教育権保障)を残したかたちによる無償化が必要だと考えます。そのために、国庫負担と地方負担の並走を提案します。

 文部科学省は「学校に備える教材」として、顕微鏡やマットをあげています。それは、形式などのちがいはありますが、その使いかたで教育(指導)内容を左右することもない教材といえます(=国庫負担による無償化≒現物給付も可)。しかし、「補助教材」としての資料集や副読本などはその選定や使いかたで教育(指導)内容を左右します(=地方財政による無償化≒学校現場で採択)。このように並走し、無償化を実現していくべきです。

 文部科学省は、「学校教材の整備」というウェブページで前回の学習指導要領改訂に合わせて「学習指導要領の趣旨等を踏まえ」、教材整備指針の一部改訂をしたと述べています。このことにより、教育課程の大綱的基準である「学習指導要領の趣旨」を踏まえた教材整備指針であるなら、教材整備指針は〈教材整備の大綱的基準〉とも考えられます。

 そのため、普遍的な必要性が認められ、教育(指導)内容に大きな影響を与えづらい「学校に備える教材」は、1953年の義務教育費国庫負担法(教材費の「一部」国庫負担があった当時)に戻し、無償化する方法がよいでしょう。そして、「補助教材」はその性格を考慮し、地方財政措置によるそれを実現するのがふさわしいと考えます(学校予算を増やし、学校現場で補助教材を選定し、購入する方法)。

 4月からの三部作は、同じ締めでいきます。「求める声が大きかった」という品川区の例もありますし、子どもに近い場所で採択できる権限を残した無償化の声を行政に届けましょう。

 

栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の小学校(7年)と中学校(13年)に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・修学支援制度。具体的には、「教育の機会均等と無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などをライフワークとして研究している。「隠れ教育費」研究室・チーフディレクター。おもな著書に『事務だよりの教科書』『学校事務職員の基礎知識』『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『教師の自腹』(東洋館出版社)、『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。