保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第43回|センセイにもある私費負担──『教師の自腹』|栁澤靖明

保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。 栁澤靖明 学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯、「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

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第43回
センセイにもある私費負担
──『教師の自腹』

 

 

 

 さてさて、『教師の自腹』(東洋館出版社)──2024年5月28日(火)出来! 発売前後には各種メディアでも大きく取り上げていただきました(たとえば、朝日新聞「教職員の「自腹」年100万円の例も 7割超が授業などの費用負担」など)。そして、先月はオンラインイベントも開催されました。

 ここまで報道されたら、この連載でも書かなきゃね(笑)──ということで今月は、「隠れ教育費」の知られざる側面として、教師の私費負担=自腹について書いていきましょう。


 

♪ いっしょにLet’s think about it. ♪


 

 まず、私費という概念についておさらいしておきましょう。第25回「公費ってなに? 私費ってなに?」では、以下のように説明しています。「学校現場ではあまり私費という言葉は飛び交いません。もっと具体的に、補助教材費や制服代などという感じで呼ばれていますね。また、『学校徴収金』『保護者負担金』という呼称もあります」──これに説明を加えていきましょう。

 学校徴収金とは、その名のとおり「学校」が「徴収」するお金であり、私費の概念区分としては最小です(ドリル代や校外活動費など)。それに加え、学校ではなく販売店から直接購入=「保護者」が「負担」するお金も乗ってきます(制服やシューズなど)。さらに、最大概念の私費とは公費の対義であり、公費以外のすべてを含めます。そのため、私費には教師の負担も含まれると説明できます(参考:拙編著『学校財務がよくわかる本』)。

 さて、「教師の自腹」現象をみていきましょうか。本当は『教師の自腹』を読んでいただくのがベストですけど、説明を割愛するわけにもいきませんので、公開されている情報をもとにダイジェストでその状況を説明してみます。

 まず、わたしもかかわっているウェブサイト「隠れ教育費」研究室のコラム「教職員の「自腹」調査結果から見えてくるもの」があります(『教師の自腹』を出版するきっかけにもなったシリーズコラム)。その第1回では「部活動の遠征のためワンボックスカーを購入した」というセンセーショナルな事例が紹介されています。

 部活動は教育課程じゃないし別に──と考えたひともいるでしょう。しかし、それだけじゃないんです。コラムを執筆するときに参照した「教職員の自己負担に関するアンケート」(全日本教職員組合・青年部)によれば、出張に行くための旅費や授業で使う教材購入にも自腹があるんです。

 続いて、『教師の自腹』でまとめた内容です。こちらでは前出のアンケートを参考に、授業・部活動・旅費に加えて弁償と代償などを加えた調査結果を考察しています。1,034人からの回答を得て、「1年間で自腹をしたことがある」=75.8%までに上りました。冒頭で紹介した朝日新聞の記事では「小学校非正規教員が88%と最も高く、中学校正規教員の83%が続いた。事務職員は40%だった」と報道しています。そう、書籍のタイトルは『教師の自腹』ですが、調査対象には事務職員も入れました。ほかにも校長や教頭も入っていて、管理職になると代償することも増えてくるようでした。そのため、本来だったら教師ではなく「教職員の自腹」なんです。

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 保護者のみなさまは、この現状をどのように考えますか? 保護者だって負担しているんだから、教師にも負担があっていい──いや第41回で「なんで受益者負担っていわれるの?」を書きましたが、教師に受益はないのでは? そうなると受益がないにもかかわらず、教師も負担しているんだから保護者の負担は当然だ──という「隠れ教育費」肯定論につながってしまいそうですね。連載の根底が揺らぎます……。

それでは「教師の自腹」、その解決策を探ってみましょう。

 なぜ自腹が発生するのかという問いも明らかになりました。『教師の自腹』(pp.206-207)から引用すれば、①「欲しいものがあっても買ってもらえない」②「お金がないと断られる」③「保護者に負担させるようなものでもないから自腹を切るしかない」④「どこまで事務職員にお願いしていいかわからない」だそうです。

 解決策を逆説的に示せば、「欲しい」という相談を受けることができれば/「お金」をじょうずにつかえることができれば、自腹はなくせそうです。

 そのために「学校財務マネジメント」の導入を提案しています。教育委員会から配当された公費を無計画に使っていくのではなく、学校の目標達成に向けて、資源を効率的・効果的に使っていくことです。具体的には、Research[調査]による解消(①④)、Plan[計画]やCheck[評価]によって公費のDo[執行]を高めることによる解消(②③)、そして情報共有や研修などによるBase[土台]の醸成で、その工程を拙著『学校徴収金は絶対に減らせます。』では「R-PDCAサイクル+B」と呼んでいます。

 また、学校財務制度の問題も改善が必要です。たとえば、『教師の自腹』(pp.254-255)を要約すると「学校現場では消耗品や備品の発注ができない」「消耗品費の令達が少なく備品費から流用できない」「学校の近くに購入可能な店(登録業者)がない」「公用自動車がない」「交際費が使えない」などがあり、これらも自腹を発生させる要因といえます。そのため、学校財務制度の改善も提案しています。

 以上により、かぎりなく自腹問題は解決に近づくだろうと考えます。しかし、それでも「なくすことが難しい自腹」、さらには「なくならなくともよい自腹」があると考えました。それを踏まえて、最後に解決ではなく「解放」という説明をしました。

 働き方改革の流れで、教師の時間外勤務が問題となっています。ある意味〈自腹労働〉です。しかし、それに加えて金銭的な自腹問題も明らかになりました。保護者のみなさまも学校にお越しのさいは、教師の自腹を探してみてください……なんていう探検隊的なオチではいけませんね。

 これを機会に、連載の第1回目「小学校入学=ランドセルの「なぜ」」から前回「補助教材って、どうやって決めているの?」まで、関心のあるテーマだけでも読み直していただき、教育費負担の問題を根本から捉え直してみるのもいいかもしれません。

 

栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の小学校(7年)と中学校(13年)に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・修学支援制度。具体的には、「教育の機会均等と無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などをライフワークとして研究している。「隠れ教育費」研究室・チーフディレクター。おもな著書に『事務だよりの教科書』『学校事務職員の基礎知識』『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『教師の自腹』(東洋館出版社)、『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。