保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第44回|未納の補填をPTAがするって変じゃない?|栁澤靖明

保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。 栁澤靖明 学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯、「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

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第44回
未納の補填をPTAがするって変じゃない?

 

 

 

 むかーし、むかしあるところに、ある費用の未納で困っている学校がありました。その学校は、PTA会費をつかって一時的に未納を補填したそうです。その後も、未納回収には尽力したそうですが、PTA総会までに回収することはできませんでした。そのため、正直なある学校は「一時的にお借りした未納補填金でしたが、回収できませんでした」「予備費から支出を確定していただけませんか」と言ったとさ。

 未納の補填をPTAがするってどうなんでしょうか⋯⋯ある保護者からいただいた相談です。今年度も引き続き、高校の保護者会役員(学年部副部長)を務めているヤナギサワが答えます。


 

♪ いっしょにLet’s think about it. ♪


 

 まず、この連載で「未納」について説明した記憶がないので、そこから入りましょうか。未納とは、未だ納入されていないこと。今回のことでいえば、納入されていないお金(未納金)があるということです。なぜ、未納が発生するのかというと学校給食や補助教材は事後精算であることが多いからです。もっといえば、学校で未納が問題になる理由は、学校がお金を集めているからです。⋯⋯ゴチャゴチャしてきましたね。前回の記事(第43回「センセイもある私費負担──『教師の自腹』」)をもとにして整理しましょう。

 学校徴収金と保護者負担金の概念を整理しました。保護者負担金は学校を介さないで保護者が販売店から直接購入するんでしたね。そのため、未納になることはありません。お金を払わなければ商品がもらえないからです。

 しかし、学校徴収金で購入するようなものは、学校が発注して保護者から集めたお金でその費用を支払います。そうなると、保護者から集められなかった場合はその額が未納とされ、販売店への支払いも滞ります。いつまでも未払い状態を続けるわけもいかずに「教師の自腹」を発生させてしまうか、どこからかお金を得なくてはなりません。そこで、相談者の学校ではPTA会費で補填したようです。

 このような事態を引き起こさないように、「隠れ教育費」は減らしていくべきですし、無償性を実現していくべきだということにつながりますね。ちなみにわたしが勤めている(いた)学校では未納により、支払いができない/会計が締められないということは、ここ十数年ありません。しっかり、保護者の負担を減らすこと、学校全体として未納と向き合うこと、就学援助制度をすすめること(第4回「就学援助を利用したいときに」)などの実践からそれが実現できています。

 ほかにも学校ではなく自治体が集金し、管理する方法(公会計化)でも学校の未納は回避できますがそれはまたの機会にしましょう。

なぜこの金額なのかよくわからない⋯⋯

 では、本題です。PTA会費から未納を補填することの問題を検討しましょう。

 PTA会費はPTAのものです。PTAには学校側である「T(教員)」としての会員も想定されるため、学校側が未納の補填をPTA組織に求めること自体は正当性があるかもしれません。求められたPTA側はどのように判断すればよいでしょうか。

 会長が認めたらOK、予備費の執行を理事会に諮って承認されたらOK、総会で総意に基づく決定が得られたらOK──このくらいが想定されそうです。しかし、どれもまちがいだと考えます。〈関係者がOKだからOK〉ではない財政法令上の問題を指摘しておきましょう。

 地方財政法第4条の5には「地方公共団体は(‥)住民に対し、(‥)直接であると間接であるとを問わず、寄附金(これに相当する物品等を含む。)を割り当てて強制的に徴収(これに相当する行為を含む。)するようなことをしてはならない」とあります。これを今回のことにあてはめるなら──大きくとらえれば地方公共団体である機関=学校は、住民である保護者に対し、PTAという間接組織を経たとしても〈ある意味、割り当てて強制的に徴収した会費とされ〉、寄付金に相当すると考えられる未納補填金を受け取ることはできない──と解釈できます(結果的に、「割り当てて強制的に徴収」したことになると考えられるためです)。

 もちろん法令上の問題というまえに、保護者(一部)の未納、ひいては学校の未納をPTAが補填するという道理は理解しがたいと考えるひとも多いかもしれません。しかし、未納補填だから問題に感じますが、法理としてはPTAが物品を購入して寄付するのと同じです。どちらもお金が学校へ流れている現象は変わりませんが、その効果にちがいがあります。物品の寄附、その効果は集団性が強くなりますが、未納の補填では個別性が増します。また、前者は寄付採納手続き(自治体が寄付を受諾する手続き)により合法化(自治体の財産化)されますが、後者はそうならないように思います。もちろん、どちらも強制が伴ったら法令上アウトなのは変わりません。

 また、PTA内部のお金にかかわる事件や事故があとを絶ちません。今年に入ってからも「小学校PTAで600万円の使途不明金」「P連で250万円の不適切会計」などが報道されています。いろいろな問題を生んでいるPTA会費です。会費がなかったらこんな問題も起こりませんし、そもそもPTA活動が会費ありきで進んでいませんか?

 本来、組織の費用って必要におうじて予算化するものです。まず、真に必要なPTA活動を精選することが重要ですよね。そこでホントに必要な分だけPTA会費として予算化すれば、今回のような問題は起こりません。そもそも補填に使うお金がないんだから起こりようもありませんよね。

 PTA活動の厳選と合わせて、そろそろ、「会費不要」=〈お金を必要としないPTAの活動〉も主流にしてもいい時代ではないでしょうか──みなさんはどう考えますか?

 

栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の小学校(7年)と中学校(13年)に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・修学支援制度。具体的には、「教育の機会均等と無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などをライフワークとして研究している。「隠れ教育費」研究室・チーフディレクター。おもな著書に『事務だよりの教科書』『学校事務職員の基礎知識』『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『教師の自腹』(東洋館出版社)、『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。