こんな授業があったんだ│第1回│ハンバーガーの授業│千葉保
「ハンバーガー」の授業
1個で9平方メートルの熱帯林が消える(1990年)
千葉 保
千葉 保
ハンバーガー・コネクションとは?
ハンバーガーは、いまや日本人の、いや、世界の人びとの胃袋をとりこにしたようです。日本には3000店ちかくのハンバーガー・ショップがあり、アメリカにはなんと1万店をこえるハンバーガー・ショップがあるそうです。あの有名な「マクドナルド」は世界中に9000店もの店をもち、モスクワにも開店して話題になりましたが、15時間に1店の割合で店が増えているのだそうです。
子どもたちの住む鎌倉市には、4つのマクドナルド店があります。子どもたちもハンバーガーが大好きで、よく店にでかけていきます。
しかし、このようなハンバーガー・ブームのかげには、すさまじいといえる状況がありました。「ハンバーガー・コネクション」といわれるものですが、1960年以降、中央アメリカの熱帯雨林が数千平方キロにわたって、ハンバーガー用の牛の牧場として切りひらかれているのだそうです。ラテンアメリカの牧場で生産された安い牛肉の大部分は、北アメリカの市場に輸出され、ハンバーガーの原料になっているのだそうです。ハンバーガー1個につき9平方メートルがひらかれていくと推定されています。
ハンバーガーを食べると熱帯雨林が消えてしまう……。このような、ハンバーガーの光と影にスポットをあてて考えようとしたのが、この「ハンバーガーの授業」です。
ハンバーガーが大ヒットした秘訣は?
T:きょうは、これ買ってきたよ。(ハンバーガーを3コ、袋から出す。)
CC:わぁ、ハンバーガー!! (歓声)
T:どこで買ってきたかわかるかな?
CC:マクドナルドだ(笑い)。
T:きょうは、ハンバーガーについて考えたいと思います。
CC:終わったら食べさせてくれる?
T:いいよ。
CC:わぁ!
T:このハンバーガーは、1904年にはじめてできたそうだけど、どこの国で最初につくったと思う?(世界地図をかける。)
辻本くん:ぼくはアメリカだと思う。アメリカに牛がたくさんいるから……。
山口くん:アメリカはなんでも進んでるから、ぼくもアメリカだと思う。
鈴木くん:ぼくはヨーロッパの国だと思う。どこの国かわかんないけど、ヨーロッパって聞いたことがある。
T:アメリカ合衆国とヨーロッパがでたね。正解はあるよ。アメリカだと思う人は? 13名ね。ヨーロッパだと思う人は? 12名。
アメリカでできたんだそうですよ。(わぁー、やったあ、との声。)アメリカは2つの食べものをまねしてハンバーガーを作ったのだそうだけどね。
CC:サンドイッチとハンバーグ!
T:あたり。よくわかったね。サンドイッチはイギリスでできたのね。だれがつくったかというと……。
CC:サンドイッチ!!
T:そうだね。どうしてできたかというと……。
CC:トランプに熱中してて……。
T:みんな、よく知ってるね。
坂本くん:先生、ジャポニカ学習帳(ノート)のさし絵にでてるよ(笑い)。
T:ハンバーグはどこでできたかというとね。ロシア、いまのソビエトにタルタルステーキというのがあったそうです。それを船のりがドイツのハンブルグの港に伝えてハンバーグになったんだって。はじめは1枚の肉だったのが、ハンブルグでひき肉を使うようになったんだって。
サンドイッチと、ハンバーグからハンバーガーを作ったんだね。やっぱり、かけごとに熱中してて、食べながらできるものって考えて作ったんだってよ。
CC:ヘェー。おもしろいね。
T:さて、こうしてできたハンバーガーを商品に、1950年にマクドナルド兄弟が大ヒットする店を作ったんだそうです。(問題の紙を黒板にはる。)
マクドナルド兄弟のハンバーガー店が大ヒット! そのひけつは?
・清潔
・ ?
・安い
T:さて、その3つのひけつのもうひとつは、なんだったでしょう?
安藤くん:うまい! うまいから大ヒットしたと思う。
日路井くん:できたてを食べさせる。
石塚くん:時間がかからない。早いんだと思う。
清水くん:近い。お店が近くにあったと思う。
鈴木くん:レストランみたいに、なかで食べられるんじゃないかな。
T:いろいろでてきたね。「うまい」だと思う人は? 10人ね! 「できたて」を食べさせると思う人は? 7人!「早い」だと思う人は……7人。「近い」だと思う人は……0人。「お店のなかで食べられる」と思う人は……2人。
正解は、「早い」。(やったあ! の声。)「30秒以上は待たせません」というキャッチフレーズだったそうだよ。
CC:何分かたつと捨てちゃうんでしょ。
鈴木くん:10分!
T:いまは、作って15分たって売れないものは捨てちゃうそうだね。
CC:もったいネェー。
T:このマクドナルド兄弟はお金持ちになるんだけど、このお店や作りかたの権利を、レイ・クロックという人に売ってしまったんだって。いまのマクドナルドのお店は、全部レイ・クロックさんの関係のものなんだね。レイ・クロックさんは億万長者になったそうだよ。
CC:いいなぁ。
15時間に1店、バーガー・ショップが増える
テキストです。
T:さて、マクドナルドのお店は、1971年に日本の1号店が銀座にオープンしました。それから、日本中にマクドナルドのお店ができていくんだね。19年まえのことだね。では、現在、マクドナルドのお店は日本全国に何店あるでしょうか?(問題の紙を黒板にはる。)
マクドナルドのお店は、現在、日本にいくつある?
[A]100店ぐらいかも……。
[B]いやいや、700店ぐらいさ。
[C]何をおっしゃる、2000店ぐらいだよ!!
T:鎌倉には何店ある?
CC:片瀬海岸(腰越)と由比ガ浜と鎌倉駅の近くと大船駅まえ。
T:鎌倉には4店あるね。となりの藤沢市には7店あるってよ。これがヒント!
田中さん:700店ぐらいだと思う。
井上くん:ぼくも700ぐらいだと思う。
山本くん:何をおっしゃる、2000店!
子どもたちの予想はつぎのようでした。
[A]100店ぐらい……3人
[B]700店ぐらい……9人
[C]2000店ぐらい……13人
鈴木くん:1県に50店ぐらいとしても、2000店になるよ。
野口くん:鎌倉と藤沢の2つの市だけで11店あったんだから、東京にはもっと多くあるから、2000店だと思う。
T:マクドナルドの鎌倉店におととい電話したら、横浜で聞いてくださいっていわれてね。横浜に電話したら、東京で聞いてくださいっていわれてさ。東京に電話したら「いま、担当者がいないから2時間後くらいに電話してください」って言われてね……。そして、2時間たって電話をして、やっといろいろ教えてもらったんだよ。
CC:ヘェー。先生もがんばるね(笑い)。
T:1990年9月20日現在で730店だって。
CC:やったぁ(歓声)。
CC:いなかにはないからなあ……。
清水くん:先生、おととい聞いたんでしょ。きょうはもう2000店になってるってことないかな?
T:マクドナルドは世界中にできたよね。15時間に1店の割で増えてるんだそうだよ。だから、2日間で1000店以上ふえることはないな。
マクドナルドは、ハンバーガーを年に何個、売る?
T:では、日本で昨年1年間でマクドナルドのハンバーガーが何コぐらい売れたかな? 日本の人口は1億2000万人ぐらいだけど、1億人として考えてごらん。(問題の紙を黒板にはる。)
昨年(1989年)、1年間で、マクドナルドの店でハンバーガーを何コ売った?
[A]日本人が1人につき平均1コ食べた。(1億コぐらい)
[B]いや、1人平均3〜4コだな。(3億〜4億コ)
[C]ハハハ……、1人平均20コだよ。(20億コ)
亀石さん:私、まだ食べたことないの。3〜4コだと思う。
森川くん:ぼくは好きなの。20コぐらいだと思う。
T:2人の意見をヒントに考えてください。
[A]1億コ……3人
[B]3〜4億コ……13人
[C]20億コ……9人
飯田くん:高校生のお兄さんなんか、いっぺんに2〜3コ食べるよ。だから、[C]だよ。
T:なるほどね。
清水くん:おじいさんたちが食べなくても、若い人がたくさん食べてるから、[C]だよう!
T:電話してきいたらね。昨年1年で……ジャン! 3億8700万コですって。
CC:(はずれたっ! やったぁ!! の声。)
T:日本にはマクドナルドだけじゃなく、もっとハンバーガー・ショップがあるよね。どんな店がある?
CC:ロッテリア!
CC:モスバーガー!
CC:森永ラブ!
CC:ファースト・キッチン!
T:(黒板に、鎌倉にあるハンバーガーショップをはる。)鎌倉にもたくさんあるんだね。そこに電話して、日本中に何店あるか、それぞれ聞いてみたんだよ。いちばん多くある店はどこだと思う?
マクドナルドもいれて考えてね。
CC:ロッテリア!
CC:モスバーガー!
CC:マクドナルド!(騒然となる。)
鈴木くん:マクドナルドの店がいちばん多いと思う。森永ラブとかのほかの店はあまりみないから……。
辻本くん:ぼくはロッテリアだと思う。ほかのとこでもよく見るから……。
清水くん:ぼくは千葉先生が多い順に店をかいていったような気がするから、マクドナルドだと思う(笑い)。
T:おっ、先生の心を読んだな(笑い)。
田中さん:私はロッテリアだと思います。
T:それでは、全部のお店に電話してきいたら、実際はこうでした。
日本でハンバーガーを売るお店は?
◎ マクドナルド……730店
◎ 森永ラブ……50店
◎ ロッテリア……780店
◎ ファースト・キッチン……90店
◎ モスバーガー……944店
CC:おおっー!(騒然)
日路井くん:すごい数だ。
辻本くん:なんでそんなに多いのー。
T:そうだね。なんで多いんだろうね?
CC:みんなハンバーガー食べるからだよう。
T:そうなんだね。5つの店だけで2594店にもなるものね。そのほかにもハンバーガー・ショップはあるだろうから……、日本人がたくさんハンバーガーを食べてることがわかったね。
アメリカにあるバーガー・ショップは何店?
T:では、ハンバーガーの本場、アメリカ合衆国には、マクドナルドの店はどのくらいあるのでしょうか。(問題の紙を黒板にはる。)
アメリカ合衆国にはマクドナルドの店はいくつある?
[A]日本と同じ730店さ!
[B]いや、もっとあるよ、3000店ぐらいさ!!
[C]何をおっしゃる、うさぎさん。7000店ぐらいさ!!
CC:(笑う。)
飯田くん アメリカの人口は日本より多いのかな?
CC:多いよっ。
石塚くん:日本とアメリカの広さや人口をくらべると3000店ぐらいあると思うな。
相沢くん:アメリカでハンバーガーができたんだから、アメリカのほうがいっぱい売ってると思う。3000店ぐらい。
鈴木くん:よしっ、ぼくはうさぎさんにかけよう!
子どもたちの予想はつぎのとおりでした。
[A]730店……6人
[B]3000店……17人
[C]7000店……2人
T:調べてみたら、マクドナルドの店は世界中に9000店あるんだって。
CC:すごいなあ!
T:そのなかでアメリカ合衆国には何店あるかというと……。(早く教えてーの声。)「何をおっしゃる、うさぎさん。7000店ぐらいさ!」だそうです。
CC:エー!! (騒然)
CC:すごいっ!! (騒然)
清水くん:ソビエトのモスクワにもマクドナルドができたんだね。
T:15時間に1つ、店が増えていくんだもんね。すごいね。
アメリカにも、マクドナルドのほかにハンバーガーを売る店はあるのかなぁ?
田坂くん:ぼくね、アメリカに行ってたことがあるからわかるんだけど、「バーガーキング」って店があって、ハンバーガーを売ってたよ。
T:そうか。調べたら、こんな店が売ってるそうだよ。(紙をはる。)
◎マクドナルド
◎バーガーキング
◎ロイ・ロジャース
◎ビッグボーイ
◎ジャック・イン・ザ・ボックス
◎ポパイ
T:やっぱり、いちばん多い店はマクドナルドかな?
CC:(バーガーキング、ロジャースなど騒然!)
T:それでは実際は……。(黒板にはった紙をひらく。)
◎ マクドナルド……7000店
◎ バーガーキング……4225店
◎ ロイ・ロジャース……540店
◎ ビッグボーイ……870店
◎ ジャック・イン・ザ・ボックス……822店
◎ ポパイ……540店
CC:すごい! マクドナルドが1位だ。
田坂くん:アメリカの人もたくさんハンバーガー食べるもんね。
CC:たくさんなんてもんじゃないよ。すごいよっ!
T:これだけ合計しても1万3997店もあるものね。アメリカの人もたくさんハンバーガーを食べることがわかるね。日本人もアメリカ人も、たくさんハンバーガー食べるんだねー。
CC:ほんと!
ハンバーガーの肉は、なんの肉? どこの肉?
T:ほんとにたくさん食べるねー。でも、こんなこと聞いたんだよ。(声をひそめて)ここだけの話、ハンバーガーの肉は、ほんとうは……ミミズなんだって。
CC:エー、ウソォー!
CC:ぼくも聞いたことあるよ(数人)。
T:さて、ハンバーガーはなんの肉で作ってんだろうね?(問題をはる。)
さて、ハンバーガーの肉は、なんの肉か知ってっか?
[A]もちろん、100パーセント牛肉さ!
[B]ホントはミミズなんだよ。ごめん!
[C]エー、これはマジに馬の肉さ!!
[D]じつはー、クジラの肉だったのよ
辻本くん:エー、そんなことないよ。[D]のクジラは、とっちゃいけないし、冷凍しててもそんなに量がないから、クジラじゃないよ。
T:辻本くんは、ぜったいクジラじゃないっていうんだね。あと、意見な〜い?
石井さん:ミミズはちょっとね。こんなに売れてるのに量がまにあわないから、ちがうと思う。
亀田くん:ずっとまえに、遭難した人がミミズ食べて生きてたって聞いたことがあるから、ミミズかもしれない(笑い)。
CC:そんなの聞いたことないよ(笑い)。
徳永さん:私もミミズだと思います。
石切山くん:ぼくもミミズだと思う。
T:おっ、ミミズ説が有力になってきたよ。
藤田くん:ぼくは、馬の肉だったらもっと高いから、牛肉だと思う。
相沢くん:牛肉をつかってたら、マクドナルドとかたくさんあるから、牛肉がなくなっちゃうから、ミミズを使っていると思う。
T:さて、では、予想してもらおうかな。
[A]牛肉……8人
[B]ミミズ……15人
[C]馬肉……2人
[D]クジラ肉……0人
T:ミミズだと思ったのに食べてたの?(笑い)電話で聞いたら、ミミズじゃなくて、馬。
CC:やったあ!
T:馬でもなくて、クジラ!(ウソォ!)
CC:クジラでもないんでしょ。
T:100パーセント牛肉ですって。
CC:ホーッ(笑い)。
T:牛肉でよかったね。ミミズじゃたまらないよね(笑い)。
では、マクドナルドで使ってる牛肉は、どこの国の肉だろう? (問題の紙をはる。)
マクドナルドの牛肉は、どこの肉?
[A]ほとんどが日本産のもの!
[B]ほとんど外国から輸入した外国産の牛肉!
鈴木くん:2年ぐらいまえに児童会の劇で、外国の木を燃やして牛の牧場にしているっていうのを見たことがあるから、外国の牛肉だと思う。
野口くん:たくさん、店があるんだから、日本のだけじゃ、まにあわないから、ほとんど外国の牛肉を使ってると思う。
T:みんな外国の牛肉だと思うのね。じゃあ、どこの国の牛肉かな?
CC:南米の国。
CC:ブラジル!
T:児童会の話をおぼえてるんだね。マクドナルドの人に電話して聞いたら、アメリカ合衆国とオーストラリアから輸入してますって言ってたよ。
CC:エー!
T:もう、ハンバーガー用の形になってくるんですかって聞いたらね、大きな肉のかたまりで輸入して、それを「ゼンチク」や「伊藤ハム」の会社がハンバーガー用に加工してくれて、それを全国のマクドナルドの店に運んでるんだってよ。
CC:ヘェー!
T:では、アメリカ合衆国のハンバーガーの牛肉はどこの肉かな?(問題の紙をはる。)
アメリカのハンバーガーの牛肉は、どこの肉?
[A]ほとんどがアメリカ産のもの!!
[B]ほとんどが外国から輸入した外国産のもの!!
CC:南アメリカ!
C:アメリカでこんなに牛肉あるもんか……。
C:でも……、日本に輸出してるってことは……?
T:さて、意見のある人は?
安藤くん:アメリカの面積は広くって牛とかがたくさん飼えて、だから、アメリカの牛肉だと思う。
T:映画でもカウボーイって見たことあるもんね。牛を追っかけてたもんね。むかしから牛がたくさんいるんだ。
徳永さん:アメリカは日本にも牛肉をたくさん輸出できるんだから、アメリカの牛肉を使ってると思います。
飯田くん:日本は730店だけど、アメリカは1万店以上あるから、たぶん、輸入したのを使ってると思う。
子どもたちの予想はこうです。
[A]アメリカ産の牛肉 14人
[B]外国産の牛肉 11人
T:調べたら、こんなことがわかりました。(解答をはる。)
アメリカ合衆国にハンバーガー用の牛肉を輸出する国ぐに……中南米の国
◎ ニカラグア
◎ ホンジュラス
◎ グァテマラ
◎ コスタリカ
◎ パナマ
◎ ブラジル
など
鈴木くん:中南米……。ほら、やっぱりー!
清水くん:ブラジルとかでしょ。おぼえがあったよ。
T:どこにある国か知ってるー?(地図で位置を説明していく=略。)
ハンバーガーを食べると、熱帯林が消える?
T:こんなことをいう人がいるそうだけど……、ホントかな?(問題をはる。)
ハンバーガーを食べれば食べるほど、熱帯林(森林)が消えていくってホント?
[A]ウン、ホントなんだよナ!!
[B]ハハァ……、ウソォ!
鈴木くん:やっぱりだ。清水(シミ)ちゃん、みたよね。
清水くん:うん、ぜったい[A]だ。
CC:ほんとうだ。これは、劇でやってたよ。
T:じゃあ、意見があったら言ってください。
石塚くん:牧場をつくるときに森林を切りひらいてつくっているって、聞いたことがある。
鈴木くん:学校で2年ぐらいまえに劇でやってた。森を燃やして牧場を作って牛を飼うって……。それだよ、これは!
T:エー、学校でやったっけ? あー、児童会の運営部がやった劇かあ。あれは、千葉先生が運営部のときにやったんだな。みんな信用して、おぼえてるんだぁ!!
2年ほどまえに児童会の運営部を担当したときに、アジア・アフリカの飢えている子どもを救おうと、児童会でキャンペーンをしたことがありました。そのとき、このハンバーガーの授業の内容をおもしろく劇にしたことがありました。このときのことを当時3年生だった子どもたちは、鮮明におぼえているのでした。ぼくは、すっかり忘れていたというのに……。
T:全員が[A]だと思うんだね。みんな千葉先生や運営部の人たちを信じてくれるんだ(笑い)。
鈴木くん:ひょっとして千葉先生はウソを教えたりして……(笑い)。
T:じゃ、これらの国がどうなったか、2つの国を例にとって考えてみよう。先生、きのうの夜、苦労してかいたんだ。(資料①をはっていく。)
CC:がんばったねー。
CC:すげぇ、豚みたいな牛! (笑い)
T:どこの国かわかるかな? (ニカラグアとグァテマラの国を説明する。)この棒グラフは熱帯雨林のジャングルの面積だね。太った牛は……、牛の数だよ。
CC:わかる、わかる。グァテマラ、かわいそう!
CC:牛がパワーアップした! (笑い)
T:牛がなぜデカクなったか、わかるかい?
CC:増えたから!
T:この2つの国のようすから、どんなことがわかるかな。
辻本くん:森林が減って牛の数が増えてるから、森林を燃やして牧場を作っていったんじゃないかな。
石井さん:グァテマラは森林が半分にまでへってる。森林がすごくつぶされたことがわかる。牛を増やすために燃やしたんだと思います。
CC:牛を増やすために森林をつぶしていったんだ。
T:みんな、そう思うんだね。でもさ、なんで森を燃やすと牧場ができるの?
鈴木くん:森に栄養があるから。
田坂くん:木が燃えてなくなって、あとに草がはえてくるのでは……。
T:そうか、でも、なんとなくわかりそうでわからないね。説明してくれないかな? なぜ、牛が増えると森林が消えていくのか? でも、考える資料もあげなくっちゃね。資料のほしい人はあげるからきてください。
① ブルドーザーでジャングルのなかに道をつくる。
② マホガニーや熱帯杉などの高価な木をきりだして運ぶ。
③ 道をとおって、土地をもたない農民たちがジャングルにはいりこみ、ジャングルを焼いて、そこにサトウキビ・バナナ・ヤシ・コメなどを作る。しかし3〜4年も耕すと、雨期の豪雨で表土が流されて不毛化し、病虫害が増えて作物が育たなくなる。
④ 牧場主がこの土地を安く買い占めて、まずしい土地でものびる牧草の種をまいて牛を飼う。1年目は1ヘクタール当たり牛1頭を飼うことができるが、5年もたつと、5ヘクタールで1頭がせいいっぱいになり、10年もたつと、ツルハシも通らない固い赤土や岩だけの荒野になってしまう。
CC:(全員もらっていく。みんな、しんけんに読んでいく。そのうち、“わかったぁ”という声が聞こえだす)
T:さあて、どうしてか教えてくれないかな? なんで、牛が増えていくと熱帯雨林の森がなくなっていくのか……。
石井さん:ジャングルの木をきって、そこに草をまいて牛をかうの。牛が草を食べて何年かたつと、草がはえてこなくなってしまうので、また、ほかのジャングルへいくの。
安藤くん:木を切ってサトウキビを植えたりして農業するんだけど、すぐに豪雨なんかで育たなくなるので、そこを買って牧場にかえていくの。サトウキビを作ってた人たちは、こんどはほかのところで同じようにするの。牧場も何年かすると草がはえなくなるから、また、ほかのところを買って牧場にしていくから、森がなくなっていくの。
日路井くん:ぼくも同じだけど……、ジャングルを焼いて、そこにサトウキビなんかを作るんだけど、何年かするとやせた土地でとれなくなってしまうから、ほかのジャングルにうつっていく。その土地を安く買って牧場にして牛をかうんだけど、牧草もはえなくなってしまうから、また、ほかのところを買ってうつっていくみたい。
清水くん:ジャングルを燃やして、そこに作物をつくるんだけど、3〜4年するとだんだん害虫がふえて作物ができなくなるから、そこを牧場にかえていくんだけど、そこもまた、だめになってしまうので、また同じようにしていく。
野口くん:ジャングルに道をつくって、高く売れる木を切りだすの。その道から土地のない人がはいってきて、ジャングルを燃やして作物を作るんだけど、土が悪くなってしまってできなくなってしまう。そこを牧場主が安くかって、のびる草をまいて牛をかう。でも、何年かするとそこもだめになって、荒地になってしまうの。
鈴木くん:ブルドーザーでジャングルに道をつくって、高価な木とかは切りだして運んで、土地をもたない農民たちがジャングルを燃やして、そこに作物をつくるんだけど、何年かするとだめになっちゃって、その土地を牧場主が安く買って種をまいて牛をかうんだけど、何年かすると岩だけの荒地になっちゃう。だから、またべつのところにうつるから、ジャングルがどんどんへっていく。
T:みんな、わかったようだね。写真があったらみんなに見せたいなと思って探したのだけど、中米のは見つからなくって、ブラジルのが見つかったから見てください。
ここで、アマゾンの森林の焼かれるようすを見せながら、焼畑農業について、また、熱帯雨林の土壌についての話などをしていきました。ジャングルの焼けあとの地にいる牛たちを見て、子どもたちはため息をついていました。
なぜ中南米産の牛肉は安いのか?
T:どうしてアメリカは、ジャングルがこんなにへるのを知っていて牛肉をかっていくんだろうね? アメリカには日本に輸出するほど牛肉があるのにね。
野口くん:お金もうけのためじゃない?
清水くん:ハンバーガーに安い肉を使うと、たくさん売れれば売れるほどもうけられるからじゃない?
鈴木くん:そうだよ。アメリカの牛肉より輸入したほうが安いんだ。
T:そうか。安いんだね。どのぐらい安いかというと1ポンドっていうから、450グラムぐらいの大きなハンバーグを1つ、この中央アメリカの牛肉で作ると5セントっていうから、10円しないでできちゃうって。
CC:エー!
CC:それを250円とか300円とかで売ったら、すごくもうかるね。
T:アメリカの牛肉はトウモロコシなんか食べて育つでしょ。おいしい肉なんだって。おいしいからね……、何に使う?
CC:ステーキ!
T:中米の牛肉はジャングルで育つでしょ。あんまりうまくないんだって。だから、ハンバーガー用にするんだってよ。
CC:フーン。
T:あのさ、中米の国の人たちは牛をたくさん飼うようになってきたから、自分たちが肉を食べる量も増えたかな?
辻本くん:ハンバーガー用に輸出しちゃうから、あまり食べられないんじゃないの?
鈴木くん:お金がない人たちだから、しかたなくジャングルを燃やしたりしてるんじゃないかな。だから、あまり食べられないんじゃない。
T:中米の国ぐには、アメリカからたくさんお金を借りてやってきたんだって。それを返さなくちゃいけないから、どうしても輸出できて外貨がはいってくるものを作るんだね。だから、政府もジャングルが少なくなっていくのをだまってみているんだね。牛肉を売らないと国がつぶれちゃうもんね。
ホンジュラスって国は、4.5キログラムが年間の肉の1人の消費量だってよ。コスタリカは10年まえは1人、年間13.5キロあったのに、いまは牛の生産量が増えたにもかかわらず、8.5キロにへってきたそうです。これらは、アメリカの犬なんかのペットが1年間に牛肉を食べる量より少ないって。
CC:エー、かわいそう!!
T:さて、熱帯雨林のジャングルがどんどん消えていくことがわかったけど、これでなにかこまることあるかな。
辻本くん:緑がへる。
鈴木くん:地球の温暖化だ。
田坂くん:O2が減ってCO2が増えてしまって、地球があったかくなってしまう。そうすると、南極や北極の氷がとけて水位があがっちゃう。
T 海面がだんだんあがってくるのか。10メートルあがっても、みんなの家はだいじょうぶ?
CC:だめっ!
T:このままいくと学校にくるのにボートでくるようになるかな。七里ガ浜小学校も、1階は海で、2階から教室なんてね。
CC:ここからとびこみができるね。
CC:でも、畑も田んぼも海のなかになってしまったら……。
CC:食べものがなくなっちゃうよ。
T:やっぱり、地球の温暖化はこまるね。そのほかにこまることはないかな? みんなは何を吸って何を吐いてる?
CC:O2をすってCO2をはいてる。
辻本くん:あっ、O2がへってしまうんだ。
T:O2を作るのは?
CC:緑。葉や木。
T:そうだね。熱帯雨林は地球のO2製造工場だっていわれるもんね。このままいったらO2不足で息苦しくなっちゃうかも……。
CC:飛行機みたいに、O2マスクが教室の天井からおりてきたりして……。
鈴木くん:あと、地球があつくなると、冷房つかってエネルギーをたくさん使っちゃう。
T:あっ、そういう問題もあるね。もっともっと石油をつかうから、ますます温暖化するねー。ほかには……? (両手を動かして鳥のまねをする。)
清水くん:あっ、野鳥が死ぬ。
田坂くん:動物だって……。
辻本くん:野生の動物のすみかがなくなっちゃう。
CC:植物もだよ。
T:そうだね。中米の熱帯林には、冬になると北アメリカからたくさん渡り鳥がやってくるんだって。それにも影響がでてきたそうだよ。
鈴木くん:渡り鳥がへっちゃうんだね。
T:もうひとつあったんだけどな? 船に関係あるっていうんだけどな。
CC:船?
T:ここにパナマ運河があってね。たくさん船が通るんだって。1年に1万2000隻も通るけど、そのうちの半分は日本の輸入や輸出するものを運んでいるそうだよ。パナマ運河がないと、遠まわりしなけりゃいけないものね。このパナマ運河でたいへんなことがおきるっていうんだけど……。
CC:??
T:パナマ運河のまわりは80パーセントが熱帯雨林のジャングルだったんだけど……、いまでは30パーセントに減ってきたんだって。
飯田くん:あっ、土砂くずれだ。
吉野くん:土砂がくずれて運河がうずまっちゃう。
CC:そうか!
T:そうだってよ。パナマ運河が土砂にうまって浅くなっていて、このままいくと、もうすぐ通れなくなっちゃうってよ。
鈴木くん:パナマ運河を掘りかえさなくっちゃね。
熱帯林がなくなると、どうなるのか?
T:さいごに、「ハンバーガーの授業」で感じたことを聞いておわりにしようね。
[子どもたちの感想]
◎吉野くん:ハンバーガーを作るのにこんなに森林が減っていくなんて知らなかった。びっくりした。ハンバーガーの店が多くあってもこまることがあるんだなと思った。
◎坂本くん:ぼくたちがふつうに食べているハンバーガーが、こんなに自然をつぶしているとはびっくりした。15分で捨てるのをやめればいいと思った。
◎石切山くん:ハンバーガーを作っている店がこんなに多いとは思わなかった。それに被害がすごいと思った。
◎田中さん:牛肉100パーセントでよかったと思った。でも、日本でも730店もあるんだから200店ぐらい店をつぶしてもいいのでは……。モスバーガーの店も。熱帯雨林がかわいそうだ。
◎井上くん:アメリカはアメリカの牛肉をつかったらいい。ハンバーガーを食べて森林を破壊しない方法を考えてほしい。
◎石塚くん:ハンバーガーをたくさん作っても、ろくなことがないと思った。
◎熊倉くん:海をうめたてて牧場をつくればいいのに。
◎亀石さん:ハンバーガーを作るのに地球の緑がなくなっていってしまうのはよくないことだと思う。もっと、ハンバーガーの店を少なくすればいいと思う。でも、千葉先生からもらったハンバーガーを食べたら、お店が多いのはなるほどと思った。
◎亀田くん:ハンバーガーひとつで被害がすごいのにびっくりした。戦争のときみたいに配給制にして、全国の人にハンバーガー券をわたせば、緑がへる速さがおそくなると思った。
◎徳永さん:いつもしぜんにハンバーガーを食べていたけど、こんな問題があったなんて知りませんでした。こんなに問題があるのに、15分たったら捨ててしまうのはもったいなさすぎる!
◎藤田くん:アメリカも肉を輸入する量を減らせばいいと思った。
◎鈴木くん:なにげなく食べているハンバーガーにもいろいろ問題があると思う。これからはハンバーガーを食べる回数をへらそうと思う。
◎川戸さん:熱帯雨林がなくなっていくなら、ハンバーガーを作る量を少しでも減らせばいいと思う。
マクドナルドがヨーロッパに進出していったとき、イタリアでは反対のデモがあり、スウェーデンでは店が爆破されたりもしました。食文化がアメリカナイズされることをきらう抵抗闘争でした。
アメリカでは、熱帯雨林を破壊した牛肉を使うハンバーガーの不買運動も展開されたりしました。
マクドナルドは中南米産の牛肉は使用していないといいましたが、まだその証拠は認められていないそうです。日本には中南米の牛肉はきていないのでしょうか。どこかの国を経由してやってきているという人もいます。
いずれにしろ、なにげなく食べているハンバーガーがかかえている問題は大きいものがあります。南北問題をしんけんに討議していくときがきていると思うのですが……。
この授業は2年まえ(1988年)に第1回をおこなったものの、森林と牛のデータのくわしいものがなかったので、しばらくそのままにしていたのですが、今回、中米のデータが手にはいったので、1990年9月に再構成しておこなったものです。
出典:千葉保『授業 日本は、どこへ行く?』太郎次郎社、1991年
千葉 保(ちば・たもつ)
1945年生まれ。神奈川県鎌倉市の小学校教員をへて、同県三浦市の小学校校長をつとめる。のち、國學院大学講師。「カード破産の授業」「使い捨てカメラの授業」「原発の授業」など、身近な題材を斬新な切り口で社会の問題へとつなぐ授業をつくりつづける。主著に、上に紹介した『授業 日本は、どこへ行く?』のほか、『学校にさわやかな風が吹く』『はじまりをたどる「歴史」の授業』『食からみえる「現代」の授業』『コンビニ弁当16万キロの旅』など。