保護者の疑問にヤナギサワ事務主幹が答えます。|第1回|どう考える? 卒業式の費用|栁澤靖明

第1回
どう考える? 卒業式の費用
栁澤靖明
突然の休載を経て──ドーンとリニューアル。
じつは、昨年の4月に昇任しました。おととし、論文と面接の試験を受けて祝合格! ということで事務主査から事務主幹となりました。事務主査の職務規定は、「上司の命を受け、困難な事務をつかさどる」(川口市学校管理規則第14条の4第3項)、事務主幹のそれは「上司の命を受け、特に困難な事務を掌理する」(同条第2項)という感じです。「つかさどる」から「掌理する」にグレードアップし、「特に困難な事務」を扱う人間になったわけです。──ということで、この機会に連載もリニューアルしました。
先月、43回目の誕生日を迎え、年々疲れやすくなり、その回復も遅れてきたし、リニューアルついでに隔月連載というわがままを受け入れていただきました。まぁ、せっかく4年間休まず続けて48回までいったんで、それをリセットするのは悩みましたが⋯⋯これから8年間続けて48回をめざします。なお、事務主査エディションも引き続きアーカイブされます。
さて、リニューアル第1弾は【コト】から始めましょう。早いもので今年度も終わりです。年度末といったら卒業式、卒業にかかるお金と向き合っていきます。
♪ Together──Let’s think about it. ♪
(ちょっと変わったけど、Let’s⋯⋯のかけ声は変わらないんだ)。不易と流行──時代が変化しても変わるべきではないこともあります──。卒業式の不易といえば、卒業証書ですね。以前、通知表の作成は義務ではなく、流行によって(?)変化していることを書きました(事務主査エディション・第39回「通知表も保護者負担になってるの?」)が、卒業証書は法律で決まっている不易かもしれません。まぁ、そろそろ教育DXの流れで「デジタル卒業証書」が検討されるかもしれませんけどね。
ちょっと脱線しますが、卒業式ってわたしの勤務地域だと卒業証書授与式という名称(?)なんですよ。これって不思議じゃないですか? 来月確認できるひとは、校門の立て看板や会場の横看板を意識してみてください。ちなみに学習指導要領では「卒業式」と統一されています。文部科学省が著している解説でも「卒業式」です。もちろん、卒業式で統一されている自治体もあります。
あ、お金の話をしましょうか。卒業式は、入場料不要で参観できます。しかし来賓の場合、受付でお金を支払う慣習がある自治体もあります。いわゆる「祝い金」というやつです。もちろん強制ではありませんから、お金を払わなくても参列は可能です。昔は、卒業式が終わるとそのお金を原資にした接待──、いや来賓向けに飲み物や食べ物を提供していました。また、学校はそのお金を寄附金として自治体の財布に入れる(歳入とする)べきではないか、校長が勝手につかっていいのか──という住民訴訟の判決もあります。本件は、その性質上「公金」ではないから校長の「裁量」でOKとはされています。このあたりは保護者に知られていないことでしょうね。
保護者が疑問に思うことといったら、卒業証書の「卒業生氏名」を書いているのはだれか? でしょうか。本文や学校名などは印刷されていますが、個人名は明らかにひとが書いた筆文字ですよね。あれは、公費(報償費という謝金や役務費などの手数料)が予算化されている場合、その費用で専門業者へ依頼しています。校長の職務とされている自治体もあるようです(苦手なひとはポケットマネーで委託しているという話を聞いたことがあります)。予算化されていない場合は、校内で差し込み印刷をする場合もあります。この場合も、インク代=公費です。それ以外で考えられる費用としたら、後援会やPTAですが、どうでしょうね。
PTAといえば、卒業証書フォルダや筒を会費から支出してプレゼントする──という話はよく聞きます。あとは「卒業おめでとう」のコサージュですね(事務主査エディション・第14回「うちの子だけコサージュをもらえない?──PTAの疑問①」)。もちろん、これらも予算化されていれば公費で支出が可能です。
卒業式とは直接関係ないけど、保護者が卒業準備・対策委員会を組織して、会費を集めている学校もあるようです。学校は卒業式の準備や対策をしますけど、保護者がそれにかかわることはありません。会費を払わなくても卒業はできますけど、その中身というのが「同窓会費」(先を見越しすぎ)や「後援会費」(強制加入ですか?)が含まれていたり、「謝恩系の費用」(公務員倫理に注意)、「卒業アルバム代」(これはアリかもだけど、購入の希望は聞いてね)、「修学旅行代」(これはさすがになし⋯⋯だって、教育活動にかかる費用を保護者が集めるってどうよ)などとされていたり、バリエーション豊かです。このあたりは公費化すればいいって問題じゃありませんね。

あとは、なにがありそうですかね。
あ、卒業証書の授与は校長がするんですが、そのときタキシードを着ていますね。あれは、自腹です(事務主査エディション・第43回「センセイにもある私費負担──『教師の自腹』」)。卒業式の近くになると専門業者からレンタルチラシが校長あてに届きます(白い手袋もセット)。この先も校長として働く期間が長いひとは、買っちゃう場合もあるようです。タキシードとは若干性格が違いますけど、卒業学年の職員は着物や袴を着ることもあり、自腹です。
服装といえば、卒業生も関係します。「卒業学年の職員」とは書きましたが、卒業生にもいえることです。中学校では制服があれば制服で統一です。しかし、制服がない小学校では着物や袴、A○B48の衣装みたいなすごいのもあります。もちろんそれにも費用がかかるわけなんで、前に書いた卒業準備・対策を保護者がするとしたらこれですね。最近では、学校から「着物や袴は遠慮ください」という通知も出されているようです。保護者も学校も悩ましいことですよね。それに踊らされる子どもたちもいます。
それでは、卒業式にかかる費用をどう考えればいいのかっていうまとめです。教育活動としての卒業式そのものの意義や価値からかけ離れた議論、行動を見直すことが必要です。卒業式は特別活動という領域の「儀式的行事」であり、その目的は「学校生活に有意義な変化や折り目を付け,厳粛で清新な気分を味わい,新しい生活の展開への動機付けとなるようにすること」です(小学校学習指導要領)。その解説では、「その場にふさわしい参加の仕方について必要な知識や技能が身に付くようにする」とあり、TPO(Time-Place-Occasion)を学ぶことが重視されています。教育活動として必要であれば公費保障が原則です。しかし、いままでみてきたような現状のすべてを公費で保障するのはいかがでしょうか? 流行に惑わされず、真に必要かどうかの判断が必要です。
思い出づくりや感動も大切ですが、少し落ち着いてこのあたりを再整理していくことも必要ではないかと考えます。
Let’s think about it.
⋯⋯疲れ気味といういいわけから始めた「事務主幹エディション」だったけど、いつもより多く書いてしまいました(笑)。
引き続き、「保護者の疑問にヤナギサワ事務主幹が答えます。」をどうぞよろしくお願いいたします。では、また再来月にお会いいたしましょう。
栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
「隠れ教育費」研究室・チーフディレクター。埼玉県の小学校と中学校に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・修学支援制度。具体的には、「教育の機会均等と無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などを研究している。
おもな著書に『学校事務職員の実務マニュアル』(明治図書)、『学校徴収金は絶対に減らせます。』『事務だよりの教科書』(ともに学事出版)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、日本教育事務学会「研究奨励賞」)、『教師の自腹』(東洋館出版社)、編著に『学校事務職員の仕事大全』『学校財務がよくわかる本』(ともに学事出版)など。