こんな授業があったんだ|第51回|東京のエネルギーを探そう!〈前編〉|平林麻美

こんな授業があったんだ 授業って、教科書を学ぶためだけのもの? え、まさか。1980〜90年代の授業を中心に、発見に満ちた実践記録の数々を紹介します。

授業って、教科書を学ぶためだけのもの? え、まさか。1980〜90年代の授業を中心に、発見に満ちた実践記録の数々を紹介します。

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東京のエネルギーを探そう! 〈前編〉
(小学4年生・2011年)
平林麻美

手回し発電機で電気をつくろう!

 3.11以降、電気のつくり方や使い方も、いままでどおりではいかなくなりました。そこで、子どもたちといっしょに電気やエネルギーについて考えたいと思い、「新エネルギー」の授業をやってみました。東京にある小学校の4年生といっしょにやりました。そのようすを報告します。

──この夏は「節電の夏」といわれました。みなさんは、おうちでどんな節電をしましたか?

「7月まで、ずっとエアコン使わなかった。扇風機も」
「エアコンは使ったけど、けっこう高めの温度にした」
「冷蔵庫から材料とかをとるときに、すばやくとってすぐ閉める」
「夏休みのあいだ、朝から昼まで電気を使わなかった」
「電気の消費量が少ない5時くらいからエアコンをつける」
「濡らして冷凍庫で固めて、それをほぐして冷たくなるタオルがあるんですけど、暑いときにはそれで涼しくする」
「冷たいスイカとかを食べる」
「プールとか公園とか博物館とか、家の電気を使わないようにいろんなところに行く」

──いろいろ工夫して節電しましたね。ところでみなさん、電気はどうやってつくるか知っていますか?

「原子力発電所で、なかのタービンとかいうやつを回す」
「炎と水の力で電気をつくる」
「風力で風車を回して、その力で電気をつくる」

 発電所は知っていても、電気のできるしくみはよくわからないようです。ここで、つぎのような図を見せながら、電気ができるまでのしくみを説明していきました。

──これを見てください。金属の線をグルグル巻いたものを「コイル」といいます。このなかに磁石をとおしてやると、電気が流れはじめるということを発見した人がいるんですね。逆に、磁石にコイルをかぶせてグルグル回しても、電気が発生するんです。
 そこで、これを持ってきました。「手回し発電機」といいます。

手回し発電機。 写真提供:仮説社

「おお! すごい!」

──先っぽに、豆電球がついてます。回しますよ。

「あ、光ってる光ってる!」

──やってみたい人!

「はーい!」
「先生、オレにもやらせて!」
 ほとんどの子が、一気に手を挙げました。そこで、手回し発電機に電流計をつないだものを班の数だけ用意して、順番に使いました。
 子どもたちは、思いっきり回しはじめました。必死の形相で、針を大きく動かそうとグルグル回します。力が入りすぎて壊してしまう子もいましたが、とても楽しそうです。全員に手回し発電を体験してもらいました。

──回してみて、どうでしたか?

「すごかった」
「けっこう早くつかれちゃった」
「あったかかった」
「手ごたえがあった」

 どの子も、回すことで電気ができることを体感できたようです。

みんなが使う電気は、どうやってつくられる?

──なにかの力で発電機を回すことで電気ができる、ということが、いまの実験からわかりました。わたしたちが使っている電気は発電所でつくっていますが、この手回し発電機のしくみを利用しているところが多いんですよ。では、どんな発電所があるか、知っていますか?

子どもたちからは、地熱や水力をはじめ、最近、問題になっている原子力をふくめた6種類の発電所がでてきました。それぞれの発電所のしくみを、一つひとつ、図を使って確かめていきました。

 最初に、イメージしやすい水力発電と風力発電のしくみを説明しました。

 つぎに、熱エネルギーを利用した火力、地熱、原子力の発電の話をして、わからないことがないか確認しました。水蒸気の力のイメージがわかない子のため、音のでるやかんのしくみを利用して説明しました。

 太陽光発電は、授業でやったソーラー電池を見せて説明すると、子どもたちはうなずいていました。

──結局、地熱発電と火力発電と原子力発電は、みんな、熱をだして水を沸かして、そのときでる水蒸気を利用して発電していたね。水力と風力と太陽光は違います。
 この6種類の発電所のことで、なにか質問はありますか?

「核を使っちゃダメなのに、なんで原子力発電はやっていいんですか?」

──核を使っちゃダメっていうのは、どこで聞いたの?

「なにかの条約で、『使わない』『持ち込まない』って」

──「持たない」「つくらない」「持ち込ませない」っていう非核三原則だね。それはね、核兵器の話です。日本が核を武器に使う、それを禁止しているのが、非核三原則といわれているものなのね。原子力発電は、いちおう、武器じゃない。電気を発生させるために利用します。

 とはいえ、3.11の原子力発電所の事故で、核の被害を人類がコントロールできないのは、核兵器も原子力発電所も同じということがわかりました。

東京には、どんな発電所がある?

 ここからは、自分たちが住んでいる東京では発電をしているのか、身近にどんな発電所があるのか、クイズ形式で考えていきます。

Q 水力、風力、火力、地熱、原子力、太陽光。このうち、みんなが住んでいる東京都にある発電所はどれだと思いますか?

「風力」

──どうしてそう思った? 理由も言ってください。

「自転車で臨海公園に行くとちゅうの土手から見える」

──あれか! たしかに見えるね。ほかにある?

「ゴミ処理場とかがあるから、火力発電」

──ああ! 見学にいった清掃工場の人が言ってたよね、ゴミを燃やして発電するって。

「太陽光発電所。水再生センターの上にソーラーパネルがあるのを見た」

──じゃあ、あるかないかで手をあげてもらいましょう。東京に地熱発電所があると思う人? ないと思う人?(水力、火力、風力、原子力、太陽光と続けて)

 結果は、風力、火力・太陽光、水力の順で、あると思った人が多く、地熱と原子力があると思った人はいませんでした。自信をもって手を挙げている子が多かったように思います。正解を教えるために、東京の発電所の立地図と写真を見せました。

──まず、水力発電所があります。なんと、山のなかにあります(❶)

「やった! あたった!」

──民間の発電所が5か所あります。4か所は山のなかにあって、1か所は水道局の浄水場のなかにある発電所です。それ以外に、くらじまという島に、東京電力の発電所があります。

 東京電力っていうのは、電気をつくって売っている会社だということは知っていますか? それ以外の会社は、自分の発電所でつくった電気を東京電力に売っているそうです。そして、みんなのおうちに届いている電気の一部になります。
 つぎに、火力発電所は2か所あります(❷)。

「あったの?」

──先生の住んでいるおうちのすぐそばです。品川発電所と大井発電所が品川区の埋め立て地にあります。両方とも、東京電力がつくった発電所です。(再録注:2019年に都内の両発電所のほか、東京電力がつくった多くの火力発電所が株式会社JERAに移管。大井発電所は2022年に廃止された。)

──風力発電所もあります。これは、みんなが見たことがあるのだけど、覚えてる?(❸)

「社会科見学で行ったゴミ処分場の近くにあった」

──そうだね。23区のゴミの最終処分場である中央防波堤外側埋め立て地の防波堤のところにありますよね。バスの窓から見えました。さっきから、みんなが土手から見えると言っていたのは、若洲風力発電施設っていうところです(❹)。若洲風力発電施設は江東区がつくり、みんながバスから見た発電所は、東京都と民間の会社が協力してつくりました。(再録注:埋め立て地にあった東京臨海風力発電所は2024年に20年間のパイロット事業を終了し、現在は撤去された。)
 あと、八丈島にも東京電力の風力発電所があります。
 地熱発電所も、じつはありました。

「え?」

──みんながないと予想した地熱発電所は、八丈島にありました(❺)。東京電力のつくった発電所があります。原子力発電所はありません。それから、太陽光発電はあちこちでやっていますが、太陽光発電所となっているところは東京都にはありません。神奈川県や山梨県にはあるけどね。

足りない電気は、どうする?

Q 東京に発電所は12か所あります。では、東京にある発電所で、電気は足りていると思いますか?

「足りない」

 すぐに声があがりました。電気は足りていないと感じているようです。

──東京で使う電気は、東京都にある発電所だけでは足りていません。では、足りないぶんはどうしているのかな?

「ほかの県からもらう」

──そうです。ほかの県でつくったものを送ってもらっています。たとえば、東京電力の火力発電所は、ぜんぶで15か所あります。東京に2か所。それから、千葉県に5か所、神奈川県に5か所、茨城県に2か所、福島県に1か所あります。これがぜんぶ、東京電力のもっている発電所で、そこでつくった電気を、東京をはじめ首都圏の電気に使っています。

「電気は、どうやって送られてくるんですか?」

「地下の電線から」

──そうだね。地上にも電線はあるね。学校の窓からも、高いところに電線が見えます。送電線で送られてくるのですね。
 火力発電所だけじゃなくて、原子力発電所もあります。
 原子力発電所は全国に17か所あり、ぜんぶで54基が運転していました。そのなかで、東京に送られてくるのは、福島、新潟、茨城からです。山や川を越えて、東京まで電線を使って電気が送られてきます。福島には、原子力発電所が2つあるのは知っていましたか?

「第一と第二」

──問題がいま起きているのは、第一のほうですね。ほかにも、すぐ近くに第二もあります。あと、新潟に柏崎刈羽発電所、茨城に東海第二発電所というのもあります。

 東京でも電気をつくっていましたが、足らずによそでつくって送っていることを確認しました。

(つづく)

出典:『エネルギーと放射線の授業』所収、2011年、太郎次郎社エディタス

図版制作:副田和泉子

平林麻美(ひらばやし・まみ)
1964年、東京都生まれ。東京都・小学校教諭。大森・羽田・葛西沖のノリ漁の歴史、多摩川・目黒川・荒川の歴史や自然、河口近くの水再生センターでの水処理の方法、東京大空襲の被害などについて、現場や当事者の話を直接聞きながら、子どもとともに学ぶ授業をつくる。東日本大震災直後には、地震や津波、液状化のしくみを知り、避難生活について考える授業をいち早く開始した。