ほんのさわり|『学校が合わなかったので、小学校の6年間プレーパークに通ってみました』|天棚シノコ

お目見え本や旬の話題から、〝ほんのさわり〟をご紹介。不定期更新です。

『学校が合わなかったので、小学校の6年間プレーパークに
通ってみました』プロローグから
天棚シノコ

やめてもあんがい大丈夫だった

ホームスクーラーになってみた

 娘のミルコ(仮名)と私たち夫婦は、小学1年生の秋、学校をやめることにした。
 最初はすごく楽しみにして行ったのに、半年で行きたくなくなったのには、いろいろな理由があった。
 学校に「やめます」って伝えにいったら、先生方、ひっくりかえってたなぁ。あたりまえだ。べつに学校が悪かったとかって責める気持ちはない。「責任とれ」とか、「どうしてくれる」とか、そんな気持ちはみじんもない。ミジンコもなければ、アオミドロもゾウリムシもいない。美しく澄んだ清流のような心である。
 私たちは、みずからの道を選んだだけだ。
「そんなことでいいのか」という声には自信をもって、「これでいいのだ!」と宣言しておこう。
 しかし、学校にいまいる子たちが、楽しく学校生活を過ごせるように考える、ひとつの材料にしてもらえるといいな、とは思う。
 で、学校をやめてホームスクーラーとして、立派に「普通の道」からはみだしたのだが、これがなかなか快適である。
 学校に通学せず、家庭に拠点をおいて学習をおこなう人のことをホームスクーラーと呼ぶのだそうだ。既存の教育の形式とは違う新しい教育のありかたのひとつで、それ自体はホームスクール、ホームエデュケーションなどともいうらしい。新しいといっても、アメリカではよくあることのようだが、ホームスクーラーというとなんかイカした感じがするので、そう呼んでおこう。
 わが家の場合、午前中は家で過ごし、午後から、ときには午前中から一日中、プレーパークという自由な遊び場に行き、地域の子たちと遊んでいる。
 デモクラティック・スクールに行くこともある。デモクラティック・スクールとは、カリキュラムやテストがなく、自分の好きなことをして自由に学ぶ学校だ。年齢は各スクールで上限などが違ったりするが、学年ごとの区切りはない。
 そこでは子どももひとりの人間として、大人とまったく対等で、スクールの方針や予算なんかも、子ども・スタッフともに一票の投票権をもって、ミーティングで決定される。このようなデモクラティック・スクールも、アメリカ発祥らしい。
 とはいえ、最初は、ホームスクーリングといっても、どうしたもんだか⋯⋯と思った。選んどいて「どうしたもんだか」って、どうなってんだ私。とりあえず、7、8回ほど通ってみたそのスクールのやり方をまねして、ふたりで朝ミーティングをして今日やることを話しあい、それをもとに行動することにした。
 ある日の予定は

 ①トランプ
 ②パズル大会
 ③ボードゲーム

 だったが、ミルコは②までやって絵本が読みたくなり、読んであげていたら物語に出てきたお餅が食べたくなり、お餅を最初からつくるのは時間がかかるので二人で五平餅をつくることにし、つくってみたらご飯が軟らかくってボロボロになったけど美味しくて、ご飯茶碗3杯分はあろうかという量の五平餅を2本たいらげ、ご機嫌でプレーパークへと出かけていったのだった。
 ぜんぜんミーティングの内容、関係なし! ミーティング意味なし! でもまあ、それはそれでよし! やることを話しあうことに意義があるのだ。
 ほかに、わが家にもちこまれたそのスクールのルールに「パソコンはひとり一日40分」というのがあり、厳密にキッチンタイマーによって管理されるのであった。

プレーパークに通ってます

 子どもが一年生だと、まだひとりで留守番できず、買い物やちょっとした用事やお出かけなど含め、ほぼいっしょに行動することになる。なので、初めは、そんな生活に息が詰まるんじゃないかと心配していた。
 ほかにも、「大丈夫かしら? やっていけるのだろうか」と不安に思うところもあったりしたはずなのに、すぐに何を不安に思っていたのか思い出せないほど、「ウフフ~、アハハハ~。なんでもない日常も、ふたりのほうが楽しい⋯⋯、って恋人かよ!」と自分につっこむくらいの、平和で穏やかな、いい感じの生活となった。
 まあそれも、プレーパークが家の近くにあったおかげかもしれない。
 プレーパークは「自分の責任で自由に遊ぶ」がモットーの、禁止事項をなるべくなくした野外の自由な遊び場で、そこにある道具や自然素材なんかを使って、子どもたち自身が好きなように遊びをつくりだせるところだ。イギリスやドイツには何百か所もあるらしい。 遊んでくれるお兄さんやお姉さんがいるわけではなく、そこにいるのは遊びを見守る、だれのお母さんかわからないママたちや、得体のしれないおじさん? お兄さん? が数名。公園の真ん中で火を焚き、その周りでなんか食ってる。
 子どもたちは、公園なのにゲームやったり、ベンチに寝転んでマンガ読んだり、かと思えば秘密基地つくろうぜー! と盛り上がってたり、なぜだか全身泥まみれだったりする。キミタチ、どうやって帰るつもりか。
 こう書くと、ものすごく怪しい感じだが、そこに行けばだれでも無料で遊べて、ふたりで行ってもべつべつに居られて、自由に過ごせる空気に満ちあふれている。  開園していれば、ミルコと私はたいてい行っているので、一日中ずっとふたりだけという日はあんがい少ない。プレーパークは保育施設ではないので子どもを預けることはできないが、行き来も含め自分で自分の面倒をみられるなら子どもひとりでもいられるし、ホームスクーリングをするには条件に恵まれている地域だったといえる。

学校に行っていないとどうなる?

 この本はこのような小学校生活を始めたミルコと、いわゆる普通のサラリーマンである夫と、当時ちょっと仕事して、プレーパークで運営ボランティアもしていた兼業主婦の私の三人家族が経験した、6年間のホームスクーリングの記録である。始めから6年間これが続くとわかっていたら、やっていなかったかもしれないが、気がついたらほぼ6年経っていた。子どもの成長はあっという間だなあ⋯⋯ってボンヤリしすぎだろう。
 ホームスクーリングはその子の希望や好み、各家庭の状況や考え方、地域の環境によってなど、ひとつたりとも同じケースはないだろう。よって一概には言えないが、やってみると意外と楽だしお金はかからないし自由だし、わが家の場合デメリットはほとんどなかった。強いて言えば私が友だちとランチに行きにくかったことくらいか。行ってたけど。あと家にいる大人全員がどこかへ働きに行くのは難しいかもしれないが、このとき私はほとんど在宅でできる仕事をしていたので、それも大きな障壁にはならなかった。学校に行っているとたとえ公立小学校であっても、なんだかんだ細かいお金が出ていく。そういうこともなかったので、家計の点から見てもひじょうにおトクだった。
 楽なことと楽しいことは一致しないこともあるが、ホームスクーリングは条件さえあえばものすごく楽で楽しい生活なのである(あくまで個人の感想です)。
 そしてなにより子どものための場所なのに、現実はそうなっていない学校に行くより、もっと楽しくて幸せで深い学びがたくさんあった。残念ながらいまの学校教育は、私が指摘するまでもなくさまざまな問題を抱えている。だからもしいまの学校がその子にあっていないのなら、ほかの場所を探したっていいんじゃないか。学校に行っていないと正しい大人になれないんじゃないかって、はじめはだれしも不安に感じるところだろうが、じつは全くそんなことはない。それはすごく強固ではあるけれどたんなる思いこみでしかなくて、ほかの選択をしても立派に大人になれるのだ。
 いまは学校外の選択肢がとても増えてきたから、オルタナティブスクールでもいいし、そういう塾でもいいのかもしれないし、フリースペースなんてのもいっぱいある。その一つがホームスクーリングという選択である。
 実際にはたくさん存在しているだろうが、まだ日本では少ないと思われているホームスクーリングの一例としてわが家の実態をつまびらかにして、学校に行っている多くの子どもたちの生活と照らし合わせてみたら、何が子どもたちの教育にとって必要なのか、いまとは違うものが見えてくるんじゃないだろうか。
 何を選んでもその子が今日を精一杯過ごして、「あー、今日は楽しかった! 明日は何をしようかな~」とワクワクしながら床につけたら、こんな幸せなことはない。行っている学校がそんな学校だったら最高だし、いまの学校をそうなるように変えてみたり、新しい学校を作ってみてもいい。
 教育っていまの日本であたりまえだと思われているものがすべてじゃない、って思うから。子どもは(大人だって)ひとりひとり違うんだから、いろんなかたちがあっていいハズ。もっと自由であっていい! 
 どんな学校、教育方法であっても、子どもは自分を成長させる力をそのなかに持っている、ということを大人の側が肝に銘じておくことが大切なのだ。
 たった一人の子育てですら失敗の連続で、何も教えず、ただぼんやり傍らにいただけの私だが、プレーパークという場所で子育てさせてもらって、ミルコやほかのたくさんの子どもたちにそのことを教えてもらった。これはホームスクーリングだからこそ見えたことだ。
 とはいえ、学力はどうなるの? とか、そんなんで社会性は身につくの? とか、いろいろな疑問がおありかと思う。それについても、わが家の場合を一サンプルとして知っていただけたらさいわいである。
 ホームスクーリングという楽しかった経験をあなたと共有でき、学ぶとか遊ぶとか子育てとか教育について、あるいは今晩の献立とか明日の世界情勢とか来期の仮面ライダーの人選とか、何か考えるきっかけにしていただけたらとても嬉しい。ちなみに仮面ライダーの人選について、参考になる情報は一つもございませんので、その点ご了承ください。

2022年3月10日発売の新刊より、プロローグ部分を公開しました。つづきは書籍にてごらんください。




 

天棚シノコ(あまだな・しのこ)
夫と娘ミルコとの3人暮らし。ミルコ2歳のときにプレーパーク(プレパ)の近くに転居し、母娘ともども自主保育とプレパですくすく育つ。
小学校に行ってはみたものの、学校をやめ、ホームスクーラーとして六年間プレパに通うミルコを見守る日々を送っていた。
会社員やアルバイトなどを経て在宅メインでできる職についていたが、大病したのを機にすっぱり仕事をやめ、現在はプレパとデモクラティックスクールの理事をつとめる。地域で子どもの権利擁護活動をつなぐネットワークづくりもしている。