保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第18回|学校備品までPTAが買うの?──PTAの疑問②|栁澤靖明

保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。 栁澤靖明 学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯、「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

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第18回
学校備品までPTAが買うの?
──PTAの疑問②

 

 みなさん、こんにちは。今月はPTAの話、第2弾です。

 PTAの話第1弾とわたし自身のPTA経験については、「第14回 うちの子だけコサージュをもらえない? ──PTAの疑問①」をお読みください。

 今回のテーマは、PTAから学校に対する〈寄付〉です。

 この件、一般会員だったら総会に参加して質問したり、議案書を熟読したりしないかぎり、身近な疑問にはならないかもしれません。しかし、正副会長や執行部などの役員経験者からはよく聞く疑問です。第1弾で紹介した「体育の授業で使うらしいバドミントンのネットをPTAで買ってほしいと頼まれたんだけど、どうして学校で買えないの?」という疑問はもっともでしょう。ほかにも、「給食のとき、当番が着ている割烹着をぜんぶ新しくしたいからPTAで用意してほしい」「今年度からすべての教科でデジタル教科書を使いたいから、その費用をPTAで負担してほしい」という話を聞いたことがあります。

 これらはすべて教育活動で使用するモノです。「どうして学校で買えないの?」という疑問は当然でしょう。気になりますね⋯⋯。

 


♪ いっしょにLet’s think about it. ♪


 まず、〈寄付〉の問題点を指摘するまえに、「どうして学校で買えないの?」という疑問を解消しておきましょう。「学校で買えない」理由は、いくつか考えられます。

 もっとも使われる理由は「お金がない」という学校予算の不足です。たしかに潤沢豊富とはいえませんので、たとえば割烹着をぜんぶ新しくする場合だと、単価2,000円×学級の数×当番の人数と考えれば、相当な費用がかかります(18学級で各10人の場合、360,000円也)。

 もうひとつ、「1万円以上の備品は学校だけの裁量で買えない」という制度の問題です。自治体によっては、学校で備品の購入ができなかったり(教育委員会に要望)、要望できる時期が限られていたり(6月に一括や11月末が期限)するからです。この状態を、専門用語で「支出負担行為権限」(地方自治法第第232条の3)が学校に与えられていない、といいます。そのため、デジタル教科書の例でいうと、年間ライセンス単価20,000円という時点でアウトというケースもあります。また、購入できるとしても、全教科そろえる、つまり、ライセンス単価×教科の数×学年の数を整備する場合、それだけで備品購入費が吹っ飛びます(3学年分を9教科で540,000円也)。

 さて、ここまでの話では「お金がないなら支援したい、してもいいかなぁ⋯⋯」という気持ちになったひともいると思います。しかし、バドミントンのネットはどうでしょうか? モノによりますが、10,000円以下でも買えます。そこまでひっ迫?! という疑問は当然です。──思うに、学校のタヨリグセです(注:過言を懸念し片仮名表記で読みづらく(笑))。たとえば、授業では数時間しか使わないけど、PTAは毎週使うでしょ? という理由から負担をお願いしたり、折半を提案したりしている場合もあるそうです。PTAが使うというのは、俗に言う「ママさんバレー」的な「パパさんバドミントン」のことかもしれません。

面倒でも総会に参加して質問してみるのも手です

 

 用途はともあれ、根本的な問題があります。地方財政法(第4条の5第1項)によって「割当的寄附金等」は禁止されているのです。

 言わずもがな、〈寄付〉は自発的な意思にもとづかなくてはいけません。ここで問題にする割当寄付とは、寄付を割り当てる行為(割烹着を学校に寄付したいから、360人全員の保護者から1,000円を強制的に寄付させること)で、そこに割当(強制)があってはならないとしています。PTAは、人的にも財的にも学校を支援する組織と考えて活動している場合は、悪意なく法律に抵触しているかもしれません。ここまで露骨に通知していないとしても、総会で予算承認されていないモノを会費から購入する場合はグレーゾーンです。翌年の事後追認ではアウトになる可能性もあります。

 もし、このような事実を確認した場合、こっそり会長や校長に教えてあげましょう。「割烹着はいっせいに更新するんじゃなくて、計画的に買いかえましょうね♪」というアドバイスとともに──。

 最後に、正しい手続きによる寄付を批判しているわけではないことを書いておきます。学校(自治体)への寄付は、採納手続きを経ることで可能になります(自治体の規則や寄付の方法により、手続きをだれがどこまでするのかは違います)。

 可能ではありますが、それに頼ること──学校がPTAの財力を頼りにしている節がないわけではありません。現実的に学校予算の不足もあり、安易に頼りたくなる気持ちはわかりますが、本来の頼る先、それは教育委員会です。

 受益者負担という言葉をどんどん広げて捉え、目の前にいる子どもたちの保護者組織、PTAにその負担を向けている問題は見直していかなければなりませんし、このことは「隠れ教育費」の増加にも拍車をかけています。原則は全額公費が正しい状態です。

 

栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の小学校(7年)と中学校(13年)に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・修学支援制度。具体的には、「教育の機会均等と無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などをライフワークとして研究している。「隠れ教育費」研究室・チーフディレクター。おもな著書に『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、2016年、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、2019年、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。