こんな授業があったんだ│第23回│[授業]エビと日本人│加藤達郎
[授業]エビと日本人
日本の大量消費社会を支えるアジアの人びと
加藤達郎
(1991年 ・ 小学4年生)
加藤達郎
(1991年 ・ 小学4年生)
[プロローグ]豊かな食卓を見直すために
現代の日本の食品輸入額トップは、「エビ」だそうです。ついこのまえまで高級品といったイメージがあったエビは、日本人だけで年間37万トンも消費し、1人あたり3キログラム(有頭)も食べていることになります。これは、世界一の消費量です。
たしかに、スーパーマーケットの鮮魚コーナーへ行くと、エビの種類と量の多さに気がつきます。子どもたちの昼のお弁当をのぞいてみても、エビ料理をよく見かけますから、きっと子どもたちにとっても好物の一つなのでしょう。
日本人のこの膨大なエビ消費量の伸びは、ひとえに年間32万トンの輸入によってささえられています。そのうちの8割が、近隣のアジア諸国から輸入されるエビなのです。私たちがふつう口にするエビのほとんどが、アジア産のエビといっていいくらいです。
さて、エビの輸入先である、東南アジアやインドのエビの生産にかかわる人びとに目を転じてみると、どんな姿が明らかになってくるでしょうか。日本人は、エビを生産したり加工したりするアジアの人びとの暮らしを知りませんし、まして、自分たちとどんなかかわりがあるのかを自覚的に知ろうとはしません。
エビだけでなく、なにもかもとりつくすトロール漁法は、東南アジアの海からエビを激減させてしまいました。いまでは、海辺に豊かに広がるマングローブの森を壊して、エビ養殖場をつくるのがブームになっているといいます。多くは日本向けのエビです。
いつのまにか、日本は「金持ち国」となり、大量消費社会に突入してしまっています。この社会の一側面を、「飽食の時代」とも表現するようになりました。日本の大人も子どもも、エビにかぎらず、食卓における「豊かさ」を享受しています。この「豊かな食卓」を生む大量消費社会は、衰えることがないようです。
「エビと日本人」の授業をとおして、日本の大量消費社会における「豊かな食卓」を見つめたいと思います。さらに、こうした食生活を見えないところでささえているのはアジアの民衆であることを、さりげなく気づかせていきたいと思いました。
和食・洋食・中華にも、エビいっぱいのしあわせ
バーガー・ショップのロッテリアは、この3月(1991年)からエビ入りバーガーを発売しました。その宣伝用ポスターを黒板にはると、子どもたちは大騒ぎです。
T このシュリンプ・バーガーを食べたら、ほんとに大きいエビがはいっていたの。そのまわりには、小さいエビがぎっしりはいっていました。先生は、ロッテリアの宣伝するわけじゃないけど。先生は、きみたちに質問したいんだ。このシュリンプ・バーガーを発売したとき、ロッテリアでは宣伝文句を考えたわけだ。それはなんだろう。
◎ロッテリアが3月からエビのバーガーを新発売! その宣伝文句は?(エビ、いっぱいの「 」!)
(A) 中味ってカンジ
(B) おいしさ
(C) しあわせ
(子どもたちの予想——(A)⋯⋯15人、(B)⋯⋯2人、(C)⋯⋯21人)
T 正解は、(C)なんです。「エビ、いっぱいのしあわせ」です。
CC ウワァーッ!!
T きみたちは、「豊かな暮らしは、食べ物に不自由しない暮らしだよ」とか、「おいしい食べ物が増えて、手にはいりやすい生活」と言っていた。ロッテリアもきみたちとおなじ考えなわけ。ロッテリアもエビがたくさんあることがしあわせだ、と言っている。だから、買ってと言ってるんだね。
そこで先生は、スーパーマーケットのエビ売り場を見てやろうと思ったんです。
スーパーのエビ売り場の写真をOHPでうつす。みんな発泡スチロールのトレイに包装された冷凍エビだ。
CC 車エビだ! むきエビ! あっ、980円!
T スーパーで売られているエビは、種類も量もすごいと思った。つぎに、冷凍食品売り場にいってエビ製品を買ったんです。
エビ冷凍食品の包装をつぎつぎに見せる。
CC あっ、エビしゅうまいだ! 桜エビ! はるまき! 皮をむいたむきエビ! 大正エビ! あっ、カップラーメン!
T 自分のうちの人がつくる料理で、エビを使っているものに、どんなものがありますか。
CC エビフライ。エビグラタン。お刺身⋯⋯。
13品目をあげて板書する。
T この料理のグループは、どんな料理かというと?
C アメリカ料理。
T アメリカ料理というより洋食だ。
C 和食に中華。
T みなさんの家の料理をみても、エビは洋食でも和食でも中華でも使われることがわかります。
きのう、デニーズへいってきました。コーヒーを一杯飲んで、メニューを3種類みせてもらったんです。写真入りのメニューを見て、デザート、飲み物をのぞいて料理を数えました。102種類もありましたが、エビが使われていた料理は15品ありました。
日本人は、1年間でどのくらいのエビを食べるのかしらべてみました。1960年、いまから30年まえ、先生が幼稚園のころ、日本人は1年間にエビを6万トン食べていたの。1986年、みんなが幼稚園のころは、37万トン食べていたの。
C ウソーッ!
T ずいぶんと増えているね。何倍になったと思う? ⋯⋯6倍だよ。
C ひぇー!
世界一エビを食べる日本人、1年に1人で何尾、食べる?
T 問題を出します。1986年、日本人1人あたり1年間にエビを何尾食べたでしょうか。エビフライのようなでっかい大型エビで考えてください。
◎1人の日本人が、1年間にどれだけエビを食べるのだろうか?(1986年)
(A) 赤ちゃんから老人までなんだから、15尾くらいだよ。
(B) バカ、そんなもんじゃないよ、30尾くらいさ!
(C) ハハハ、きみたちあまいよ、70尾くらいさ!
C 1年間というとけっこう長いんだから、70尾くらい。
CC ぼくも70尾だと思う。
C 30尾くらいかな。赤ちゃんからお年よりもはいっているんだから。
C ぼくは、30尾だね。
C 1年間に赤ちゃんが70尾も食べられるかな。
C 1年間は365日だから、70尾くらい食べるんじゃないかな。
(子どもたちの予想——(A)⋯2人、(B)⋯20人、(C)⋯14人)
T 実際しらべてみると、こうなりました。
ど、どっと、どよめきが広がる。
T 1960年は、日本人は年間1人あたり660グラム食べていた。ところが1970年、1.4キログラムに増えてるんです。きみたちが生まれたころは、2.3キログラムになっている。1986年では3キログラム食べてるんですね。すごい量でしょう。これを大型エビで計算すると、1960年では15尾を食べている。1986年には、1年間で70尾も食べているんです。
CC やったぁ! 当たったー。
C ぼく、そんなに食べてないよ。
T どう思いますか。
C それだけエビが多いんだな。
C 人口が増えたから⋯⋯?
T ああ、これはね、⋯⋯人口が増えたことに関係なく、1人あたりの食べる量が増えていることをあらわしているわけ。
C エビがむかしより安くなって、それでたくさん食べるようになった。
T うん、先生が子どものころはね、エビを食べるというのは、特別なことという感じでした。お祝いのときや特別に外で食事をするとき、エビの料理を食べる。いまは、手軽に買えるでしょう。
ところでね、日本人が世界でいちばんエビを食べる。70尾。第2位は、アメリカです。アメリカ人は、1年間に何尾、エビを食べると思いますか。これも大型エビで考えます。
C 50尾くらい。
C 60尾?
C 40尾くらい?
T じつは、第2位のアメリカ人は、年間1人、27尾を食べる。
CC ええーっ!
T それだけ日本人がエビを食べるということなんだね。
C ぜいたく。
C そんなに少ないってことはさ、じゃあ、食べない国もあるってこと?
T うん、よくわからないんだけどね、世界の人が1人あたり1年間に何尾くらい食べるかというと、大型エビで考えると、5尾くらいなんだって。つまり、日本人は1年で70尾も食べるんだけど、世界中の人でならしてしまうと、1人5尾。
日本人が食べるエビは、どこから来るのだろう
T こんなふうにして、日本人はたっくさんのエビを食べるんだけど、このエビはどこでとれるエビなんでしょう? 予想してくれる?
◎日本人が食べるエビは、どこのエビ?
(A) ほとんどが、日本産のもの!(つまり、日本近海や遠くの海で日本人がとったのサ)
(B) ほとんどが、外国から買った(輸入した)外国産のもの!
C (B)だと思う。
C 私は、レストランのエビはほとんどが外国産だと思う。でも、(A)だと思う。
C 私は平山さんとおなじで、小さいエビは(A)で、レストランのエビは(B)だと思う。でも、ほとんどは(B)。
C 日本の漁師がわざわざ海に飛びこんで、エビをとってくるのもたいへんだから、最初っから買ってくると思う。
(子どもたちの予想——(A)⋯⋯11人、(B)⋯⋯21人)
T 37万トンのうちね、国内産、日本産のことね、これが5万トン。残り32万トンが外国産。
国内産のエビは、お好み焼きのなかにはいっている桜エビ、芝エビみたいに小さいエビがほとんどなんだって。あと、大きい伊勢エビというのがあるでしょ、あれがほんのちょっととれるそうです。だから、私たちがふつう食べるエビは、全部といっていいくらい、外国産なんだそうです。
CC へぇーっ!!
T どこのエビかというとね(世界地図を黒板にかけて説明する)、第1位が台湾。第2位がインド。第3位はインドネシア。第4位が中国。つい最近までね、1位はインドだったんだけど、このごろは台湾のエビが増えてきたんだってよ。
C だいたい日本に近いところだね。
C グリーンランドからくるのかな。
T 1位から4位までひっくるめると、だいたいこのへんなのね。
C 日本の近くだね。
T アジアというのはとっても広いんだけれど、この辺の国ぐにを東南アジアの国ぐにといいます。日本人が食べるエビのほとんどが、この台湾、インド、インドネシア、中国のエビなの。
C 中華料理ってだいたいエビを使ってるよね。
T うん。私たちの食べるエビというのは、ほぼこの四つの国から輸入したエビなの。日本人が買ったエビで、日本人がとったんじゃない。
C 日本のお金がなくなっちゃうよ。
C 日本はいちばん金持ちなんだぞ。
T 日本は、毎年、外国から食べ物を買っているんだけど、いちばんお金をかけるのがエビなんですって。
C シェーッ!
T 2番目にお金をかけるのがトウモロコシ。
C えーっ!?
T これはね、人間が食べるものだけじゃなくて、牛や豚が食べるエサです。3位はね、コーヒーの豆。4位が豚肉。とにかく日本人は、食べ物のなかでエビにいちばんお金をかけている。
トロール船でごっそりエビをとると、海の底はどうなる?
T 東南アジアの人たちは、一度に多くのエビをとるために、どういう方法でやっていると思いますか。
C 船でエビがいそうなところにいって、網を仕掛けておく?
C エビがいそうなところで、とる人がもぐって、とっちゃって船に運ぶ。
C 夜、船で沖に出て、ライトをつけて、そこにエビが集まってきて⋯⋯。
C それじゃ、イカじゃないの?
◎東南アジアの人は、一度に多くのエビをどうやってとるの?
(A) 大きな網をひろげて、海底をザラザラとすくう、トロール漁っていうやり方さ。
(B) なにをおっしゃるウサギさん! いまは養殖エビが増えているんだよ。
C ぼくは、(A)だと思う。わざわざエサなんかあたえないで、エサなんかあたえたって⋯⋯。
C 私は育てるよりか、まえから住んでいるエビをとったほうがいいと思う。
C エビの卵をかごに入れて、どんどん毎年、卵を入れて、生かして⋯⋯。
C それよりも、私は自然でとれたエビのほうが多いと思う。
C 私は、海老原さんとおなじで、網のなかや囲いのなかで育てるより、自然のなかで育てたほうがもっとおいしくなるんじゃないかって⋯⋯。
T 正解は⋯⋯どっちも正しいの!
C ええーっ!?
T (A)のほうから説明するね。トロール漁をしている船をトロール船っていうんだね。これが、トロール船の絵なの。ほんとはすごく大きい船なんだよ。
ここで、トロール船によるトロール漁のやり方を、OHPを使ってかんたんに説明した。
T でもね、トロール漁をやると、こまったことがおきるわけ。どういうこまったことがおきると思う?
C 海草を傷つけちゃう?
C 砂などで⋯⋯海がにごっちゃう。
C エビの腹が傷ついて、死んじゃったりする。
C 土をほっちゃう?
T 東南アジアの人は、こう言うんだって。トロール船がとおったあとの海底は、まるでアスファルト道路、高速道路みたいにツルツルになっちゃうんだって。
C ええーっ!?
T つまり、海の底には岩もあるよね、海草もあるよね、サンゴもあるよね。そこをトロール船の網でグワーッといくね、そのあとは、まるで海の底に道路が一本できたみたいに、海底がツルツルになっちゃうんだって。
そうすると、エビもとれるけれど、ほかのものもとっちゃうことになるの。そのトロール漁というのでエビをたくさんとっていたんだけれど、トロール漁をやりすぎて、いま、東南アジアの海ではほとんどエビをとりつくしちゃったの。
C ええーっ!!
T とったとしても、ほんのわずかなんだって。これだけ大きい船だと石油も使うでしょ。石油をたくさん買って漁に出ても、とれる量はほんのわずかなんだって。
エビをとっている人たちが、エビを食べられなくなった
T スリランカ(地図で説明する)の人たちは、おうちでつくるカレーに、近くでとれた大きなエビを入れていたんだけれど、このごろはそのエビが食べられなくなっちゃったんだって。
C えっ? ほんと?
T これは、トロール漁でエビをとった船の上の写真です。
C ええーっ! これしかとれないの?
T そう。しかも、東南アジアの人は、トロール漁をしてエビといっしょにとった小魚を、そのまま海に捨ててしまうことがあるそうです。
CC ええーっ!! 食べればいいのに!
T 保存するための氷や冷蔵庫を、エビのために使っちゃうわけ。小魚の分の氷はなくて保存できないから、しかたなく小魚は捨てちゃうんだ。
CC もったいないな。
T スリランカの人がエビのカレーが食べられなくなったって言ったでしょ。そのうえ、自分たちが食べたいような小魚も少しずつ食べられなくなってきた。少しでもエビをたくさんとって売ったほうが、お金になるわけでしょ。
C 小魚よりも?
T そう。エビは高く売れるんだよ。だから、こういうこまったことがおきるようになった。
C もったいないな。
T エビのとり方を勉強したとき、(A)のトロール漁も(B)の養殖も、どちらも正解だよって言ったでしょ。じつは、トロール漁はだんだん禁止されてくるようになったんだって。理由は、海底がめちゃくちゃになる、魚がいなくなるということ。それから、東南アジアのエビはほとんどとりつくされちゃって、いまはほんのわずかしかとれないんだそうです。これも、トロール漁禁止の理由です。
ここで、海ガメ保護のために考えられた網、アメリカンネットを使ったトロール漁は限定的に行なわれていること、でも、実際は、禁止領域でもトロール漁はいぜんとして行なわれていることなどを話しました。
T そこで、東南アジアでは、養殖エビ、つまり養殖でエビを育てていくやり方をとるようになったんです。(「養殖」という意味をかんたんに説明して)養殖でとったエビを日本に売る人たちがたくさん増えてきたんです。
エビを食べれば食べるほど、熱帯雨林が消えていく
T さて、ここで新しい質問をするよ。こんなことを言う人がいるんだけど、ほんとうかどうか考えてください。
◎エビを食べれば食べるほど、熱帯林(森林)が消えていくってホント?
(A) ウン、ホントなんだよナ!!
(B) ハハッ、ウソォ!
ここで、「熱帯」と「熱帯林」をかんたんに説明しました。
T 意見を聞いてみます。
C ぼくは、(B)だと思います。海と森林はちがうから⋯⋯、エビをとるためにべつに森林をこわさなくてもいいんじゃないかと思う。
C 私も(B)だと思います。海まで木の根がいくわけないから。
(子どもたちの予想——(A)⋯⋯13人、(B)⋯⋯25人)
T 正解は、(A)なんです。
C ええ、ウソォー!!
T 養殖場をつくるために熱帯林をつぎつぎに切りたおしていくんだそうです。
C あっ! 木でつくるんだ。
T マングローブという木が海ぎわのところ、海と陸の境目のところにひじょうに多くはえているんだって。
C 沖縄にもあるんじゃない?
T マングローブの森をぬけると、海じゃなくて沼地があって、この水は海水と真水が混じっているんだって。
C へえー。
T 不思議なことに、マングローブの木は、この海水と真水の混じっている泥沼に育つんです。
写真のマングローブの木の根っこのところを見せる。
C なに、これ?
T 根っこがタコの足のようになっているね、マングローブの木って。エビの子どもは、海の底で卵から小さなエビになるわけ。そして、陸地に向かって泳ぎ、このマングローブの森の沼地にたどりつくんだそうです。
この泥沼のなかに、エビの食べものがたくさんある。エビだけでなく、魚もこのマングローブの沼地で育つんです。
C ここに養殖場をつくるわけ?
T そう。だから、マングローブの木はじゃまになるわけ。つぎつぎと切りたおしていくの。
これは、マングローブの木をとったあとの沼地を深く掘っているところです。
こうやって沼地をどんどん広げていって、養殖場をつくっていく。
エビ1キログラムを育てるのに、エサが10キログラム必要なんだって。魚やエサを買って、ばらまいてエビを養殖しているの。その土地の人は、むかしのように、エビだけでなく魚もたくさん食べられなくなっているそうです。
C かわいそう。
T つまり、エビをつくればつくるほど、その土地の人はたんぱく源の魚の肉が食べられなくなっているって。
東南アジアでとれるエビが、なぜこんなに安く買えるか
T どうして日本は、東南アジアの国ぐにから大量にエビを買うんでしょうね?
C おいしいから?
T うまさは、先生にはわからないなぁ。
C 日本の海には、あんまりエビがいないから。
C ええーと、日本には小さい桜エビが多いんだけど、東南アジアには大きなエビがある⋯⋯。
C 日本はお金持ちだから?
C 安いから!
T “大きなエビがたくさんある”ということと“安い”という理由からだろうね。きょうはね、どうして東南アジアのエビは安いのか、ということを考えていきたいと思います。
さて、みんなが食べるエビは、生のまま日本に送られてくるのかな?
C 冷凍。
T そうなんです。冷凍。東南アジアで冷凍したものを、そのまま日本に運んでくるの。
養殖場や港の近くに、エビの加工場というのがあるんです。そこではエビの頭や皮をとったり、重さをはかったり、容器につめたりして冷凍にするわけ。加工場ではほとんどが手作業です。
C うわーっ、全部おばちゃんたち。
T ここは、日本人がお金をだしてつくったインドネシアの加工場です(地図で示す)。インドネシアにはたくさんのエビ加工場があって、若い女性たちがたくさん働いているそうです。
この写真なんかは、工場なんてもんじゃないですね。エビの乾し肉をつくっている女の人たちです。
ここで、さらに何枚かのエビ加工場の写真をOHPで見せて説明を加えました。
T こういう女性たちが(なかにはもちろん男性もいますが)、一生懸命に働いて、エビを冷凍にして日本に売っているわけです。じつは、こういう人たちがどのくらいのお給料で働いているかっていうことをしらべてみたの。
そのまえに、加藤先生のお給料をみなさんに紹介しますね。先生の、安くってはずかしいんだけど、手取りで(ちょっと手取りの意味を説明しました)、ひと月25日働いて約25万円です。
CC ええーっ!! おおーっ!!
C すると、1日1万円!?
T そうなんだ。
CC へえーっ!!
T 先生の給料は、1日約1万円です。インドネシアで働く女性たちの給料は、人によって差があるんだけど、1日……。
23000円と板書しました。
CC ふあー!! すげーぇ!! 23000円!
ここで0を消して2300円としました。
CC なーんだ。2300円!!(笑い)
つぎに、また0を一つ消して230円としました。
CC ええー!!
しばらく大騒ぎがつづきました。
T インドネシアのエビ加工場で働く女性たちは、1日230円。このエビの乾し肉をつくっている女性たちは、1日110円くらいだそうです。
CC ええーっ!? 1日!?
C オー、マイゴッド!
T 東南アジアのエビが安いというのは、じつはエビ加工場で働く人たちのお給料がこんなに安いからなんです。お給料が安いわけですから、日本人は安いエビをたっくさん買えるわけ。
便利で豊かなくらし、それはいいことですね。食べものがいっぱいあるのは、とてもしあわせですよね。ロッテリアさんが言うように、エビがいっぱいあるのもしあわせ。
私たちは、この授業で日本にたくさんのエビがあるのを知りました。でも、エビのことで私たちが知らないことがたくさんありましたね。
さあ、これでエビの授業を終わりにしますが、このエビの授業で感じたことや考えたことを作文にしてください。ゆっくり考えてください。
[エピローグ]身近な素材からアジアを知る
一昨年、鎌倉雪ノ下カトリック教会に、横浜教区のカトリック教会の責任者、濱尾文郎司教がいらっしゃって、お話をしてくださったのです。
そのお話のなかに、こんなエピソードがありました。アジア人の司祭たちと食事をともにしていたとき、ある司祭が不快な表情で「日本人は、もうこれ以上エビをとらないでほしい」と言ったというのです。濱尾司教ですら、この司祭のことばの背景にアジアの民衆のどんな生活の姿があるのか、当初ピンとこなかったといいます。
その話がきっかけとなり、私の心のなかに、日本人のエビ消費量の増大がほかのアジア人たちとどうかかわりがあるのかを知り、それを伝えたいとする「熱い思い」が生まれました。
この授業は、日本の大量消費社会とそれをささえるアジアの人びとの存在に気づかせたいとするねらいで考えだされたものです。そのために、どんな具体物をとおして気づかせたらよいか、あれこれと迷いましたが、結局、まえから関心があったエビにスポットをあてることにしました。
こうした主題を小学四年生にわかりやすくかみくだいて、うまく料理して展開することができたかどうか、まったく自信がありません。自分の「思い」が先行しすぎ、授業展開に無理があるにちがいありません。自分で資料を集め、読みこみ、構想を練るむずかしさと楽しさを同時に感じつづけました。
最後につけ加えるなら、この授業は千葉保著『(授業)日本は、どこへ行く?』(太郎次郎社刊)によるところが大きいことです。日本の大量消費社会を、具体物にスポットをあててえぐろうとする視点・切りこみ方と、クイズを多用して展開する授業方法は、千葉氏の授業をおおいに参考にしました。
出典:里見実・編『地球は、どこへ行く?』1993年、太郎次郎社
加藤達郎
1954年、新潟県に生まれる。
この授業は、私立聖ヨゼフ学園小学校教員のときのもの。